2010 / Vital Lacerda
Vinhos(ヴィニョス)。聞き慣れない言葉だが、ポルトガル語で「ワイン」のことだ。
ワインと言えば真っ先に思い浮かべるのはフランス、イタリアだろう。実際ワインの生産量でも1位がイタリア、2位がフランスである。
その後にはスペイン、アメリカ、アルゼンチンと続くが、10位以内にポルトガルは入っていない。10位を過ぎた辺りをうろうろしているようだが、イタリアやフランスとは生産量で10倍ほどの開きがある。
一方、ワインの消費量で見てみると世界で5位付近にいる。国民一人当たり1年間で60本ほど飲んでいる計算になるらしい。つまり一人で1週間に1本はボトルを開けていることになり、家族が5人いるとしたら、1週間でボトル5本。それが全家庭の平均で、日本人からするとすごい消費量だ。
ポルトガルはヨーロッパの中ではそれほど面積の広い国ではない。フランスの5分の1、イタリアの3分の1ほどしかない。それなら国単位での生産量もその分小さくなるのは当然で、むしろ消費量の多さで見て世界有数の「ワイン国」と言っていいだろう。国民一人当たりの消費量ではイタリアやフランスよりも上だ。
それからポルトガルには有名なワインがある。ワインが好きな人なら知っていると思うが、ポートワインだ。
ポートワインは酒精強化ワインと言う種類で、発酵の途中でブランデーを加えて糖分の分解を止めてしまうことで、ブドウの甘さを残し、なおかつアルコール度数も高くした濃厚な甘口ワインだ。
日本では赤玉ワインがこのポートワインの味を模して作られている。
さて、そんな前置きから始めた通り、このボードゲームはポルトガルのワイン作りをテーマにしている。(なぜポルトガルかと言うと、デザイナーのヴィタル・ラセルダ氏がポルトガル人だからだと思われる)
と言っても、あれこれ研究して「この一本!」という凄いワインを作るゲームではなく、ワイナリーの経営に焦点を当てたゲームだ。
決して軽いゲームではない。かなり苦しいゲームである。ワイナリーの経営は楽ではない。しかし、だからこそ楽しい。そんなゲームだ。
ルールは複雑で全てを説明するにはボリュームがあり過ぎるので、今回はそのワイナリー経営を、日記風の読み物として見てみようと思う。
(ゲームの流れに合わせてあるので、多少無理な設定や時系列になっているのはご容赦いただきたい)
5月3日
ポルトガルの空気は美味しい。都市部はともかく、郊外の葡萄畑に満ちた空気、この乾いて透き通った大地の匂いはいつも私をクリアにしてくれる。
さて、今日は畑の契約に行く。ポルトガルにはいくつもの名産地があるけど、私が選んだのは、初めてポルトガルのワインに出会った味、そう、ポートワインの銘醸地「ドウロ」だ。
ドウロは山と川による起伏豊かな地形が特徴で、傾斜地にワイン用の葡萄畑が階段状に並んでいて、景色も美しい。
ここが私の葡萄畑。まだ一区画しかないけど、赤ワイン用の黒葡萄がきれいに手入れされて植えてある。私のワイン作りは、ここから始まるのだ。
ところで、この畑を買った時に、前にここで作られていたワインもオマケでもらってしまった。前のオーナーさん、太っ腹。
6月24日
ワインの貯蔵庫が完成!
まだ私のワインはできてないけど、貯蔵庫がなくっちゃ、ワインがすぐ傷んでしまう。それに、ちゃんとしたセラーがあれば、熟成したワインはどんどん美味しくなる。
とりあえず、オマケでもらったワインを入れといた。
7月3日
白ワイン用の白葡萄の畑を新しく買った。こっちにも貯蔵庫を作らないと。お金はいくらあっても足りない。
9月20日
今日は銀行に行ってきた。なぜかと言うと、手持ちの現金が無くなったから……。だって、何を買うにも現金払いなんだもの!
口座の残高が減ると、なんとなく不安……。
でも、もうすぐ私の葡萄たちも収穫だ!
そしたら、こんな不安も、すぐに吹き飛んでしまうよね。
12月4日
ついにできた。私のワイン。
今日のこの瞬間のために、ずっと走ってきたかと思うと、泣けてくる。
今年は天気があんまり良くなかったから、ワインの出来としては最高とは言えない。でも雨が続かなかっただけマシ。
なんにせよ、これが記念すべき私のワイン第一号。
今日もどんより曇り空だけど、見ようによっては、空一面に輝く、銀色の海。
4月29日
初めてワインが売れた。
買ってくれたのは地元のレストランで、小さなお店だけど、料理がすごく美味しいんだよね。それとシェフが私のお父さんにちょっとだけ似てる。
代金が振り込まれたら、また銀行に下ろしに行かなきゃ。現金は常に持っておかないとね。
6月11日
畑の隣に、醸造所を増設することにした。今年はもっといい出来のワインを作って、来年のワインコンクールを目指さなきゃ。
8月3日
今のスタッフはみんな優秀だ。だけどもっと研究が必要だ。研究して、改良して、誰も味わったことのないワインを作る。そのために、醸造学者の先生に来てもらうことにした。
お給料の支払いは口座引き落としだから、投資分を少し切り崩して口座の残高に充てておかないと。
11月28日
今年は良いワインができた! 天候も申し分なかったし、新しい醸造所も、先生も、もちろんスタッフのみんなも本当に頑張ってくれた。
このワインを熟成させて、来年のコンクールに出そう。
コンクールで評価されるためには、ワインの質ももちろんだけど、事前の根回しも必要だから、ちゃんと今から準備しとかないと。
1月30日
今日は何人かの専門家に来てもらった。もちろんコンクールのためだ。
今のトレンドだと「香り」と「見た目」が重視される傾向にあるから、アロマのテイスティングに定評のある人と、色味の見極めでは達人レベルという人を呼んだ。これでコンクールの対策も万全。
……そう思いたいけど、正直に言うと、やっぱり不安。
でも今は、私のワインたちを信じるしかない。下ばかり向くのは、畑の土を見る時だけでじゅうぶん。
3月17日
私の手から生まれたワインが、今や大きく育って、繋いだ指を離すように、海の遥かに旅立っていく。
私の生まれた国から来た人が、その手を引いていく。
運命を感じちゃうね。
あーあ、私はもっと君たちの成長を、ずっと間近で見ていたかったよ。
でも、嬉しい。
4月8日
コンクール当日。来た。ついに、この日が。
コンクールは、これまでのワイン作りの集大成だ。テロワール、天候、熟成、醸造所、学者、それら全てによってワインの質が決まり、質の良いワインは多くの専門家が後押しをする。
トレンドも重要だ。味や香り、色味、アルコール度数など、ワインの評価にはトレンドがあり、上手く時流に乗ったワインがより高く評価される。
私のワインはどうだろう。できる限りのことはやったつもりだった。でもまだまだやり切れなかったことが、今も次々に頭に浮かんでくる。
もうすぐ結果発表だ。みんな、見ててね。
5月20日
今日もいい天気だ。夜明けとともに起きて、朝が吐いたばかりの、生まれたての空気を吸いこむ。
今日はホテルへの納品と、輸出分のパッキング、それから醸造所の先生との打ち合わせだ。
昔は一日に一つのことをやるので精一杯だったのに、今はまるで自分の手が何倍にもなったみたいに、どんどん仕事が進んでいく。
3年前のあの日、コンクールの日、会場の片隅で枯れ木のように立ちすくんでいた私を理事会の人が目に止めて、ひよっこのくせに調子に乗った私の青臭い弁舌に、最後まで真剣に耳を傾けてくれた。
あの人が今でも色々な面で便宜を図ってくれるから、私も自分の力以上にたくさんの仕事を回すことができる。
早く一人前になって、あの人に頼らずに何でもこなせるようになりたい。
私のワイン。
銀色の雲が覆う空の下で生まれた、私のワイン第一号。私が名前を付けたんだ。赤ちゃんを産んだばかりの母親のように。
「Oceano de Prata」
「銀色の海」という名の、世界でいちばん、美しい液体。
……架空の日記はこれで終わりだ。
思いの外長い読み物になってしまったが、これでも実際のルールブックに比べたら10分の1程度だろう。
ところでこのボードゲーム、ルールをちょっとだけ変更したデラックスエディションという新版があるんだが、デザインが完全に刷新されている。
僕が持ってるのは旧版で、例えるなら、旧版はオーク樽で熟成されたワイン。新版は、ステンレス樽で熟成されたワイン。
どちらも違う味わいがあるし、どちらが優れているということはない。どちらを手に入れるかはお好みだ。
そう言えばまだ、ワインを飲みながらこのボードゲームをするという楽しみ方は試していなかった。今度やってみよう。
その時のワインはもちろん、ポルトガルワインだ。
- タイトル
- VINHOS
- デザイナー
- Vital Lacerda
- アートワーク
- Mariano Lannelli
- パブリッシャー
- What’s Your Game?
- 発売年代
- 2010年代
- プレイ人数
- 4人まで
- プレイ時間
- 2時間以上
- 対象年齢
- 小学校高学年から
- メカニクス
- ワーカープレイスメント