2015 / Klaus and Benjamin Teuber
税金がテーマのボードゲームは珍しい。
税金というか、徴税だ。ゲームシステムの一要素として徴税を取り入れているゲームは探せばいくらでも見つかりそうだが、徴税そのものを主軸にしたゲームはあまり見たことがない。
では、税金がどのようなゲームになるのか?
あなたもここで一度考えてみて欲しい。あなただったら、税金というテーマでどのようなゲームを作るだろうか。
税金には、取る側と取られる側がいる。
僕たちの多くは取られる側の立場だと思うので、まずは税金を徴収される側のゲームを考えてみよう。
例えばあなたは一定額の資産を持っている。そして定期的に、そこから税金を払わなければいけない。
あなたが取れる行動は3種類ある。「払う」か、「脱税する」か、「デモを起こす」かだ。
払う場合、資産から税額が減るだけだ。
脱税する場合、資産は減らないが、バレたら高額の罰金を支払うリスクがある。
デモを起こす場合、税金は払うが、税額を減らせる可能性がある。
ざっとこんなところだろうか。もちろんこれだけではゲームにならないが、もっと工夫すれば面白くなるかもしれない。
この場合、ゲームの目的は資産を貯めることだろう。あるいは、ゲーム中で資産を使って何かを購入して、それが得点になってもいい。だからなるべく資産を減らしたくない。
つまり、税金を取られる側のゲームを想定した場合に総じて言えることだと思うが、ここでの税金は、ただ資産が減る原因になる要素であって、それ以上ではない。「収入が一定額減る」「それを回避するいくつかの手段がある」というのが核心であって、それは別に税金でなくても成り立つ。ゲームの目的である資産は、税金とは別の軸に独立して存在している。
もちろん、この架空のゲームでは資産が減る原因が税金由来のものしかないので、資産と税金はプラスとマイナスが違うだけで同じパラメータであるとも言えるが、表面上の意味としては別の物だろう。
即ちこの架空のゲームを言い表すなら、「資産が減るのをなるべく回避してお金を貯めるゲーム」だ。
それでは次に、税金を取る側のゲームも考えてみよう。
税金には、取る側と取られる側という観点の他に、決める側と決められる側という観点もある。即ち税額の決定だ。
税額は、取られる側は決められない。ただ受動的に従うだけだ。しかし取る側はこれを決める選択肢がある。つまりゲームシステムとしてプレイヤーが能動的に決定する仕組みとして取り入れることができる。
そうすると、例えばこんなゲームが思い浮かぶ。
あなたは国民から税金を徴収する王様だ。あなたは国に威信を示したい。そのために、あなたを模した大きな彫像を国にたくさん建てたいと思っている。しかしそれには莫大な資源と労働力が必要だ……。
そこであなたは、国民からなるべくたくさんの税金を徴収しようと試みる。でもご注意頂きたい、搾取しすぎると暴動が起きる。暴動が起こらないようなギリギリの線を狙って、税額を調整する。そして、その税金でキラキラに飾り立てたあなたの彫像を建設するのだ。
そう、それが今回紹介するこのボードゲームである。
「Tumult Royale」
「tumult」は耳慣れない単語だが「動揺」「騒動」といった意味で、日本語版では「王国騒動」と訳されている。
デザイナーのクラウス・トイバー氏は、現代に続くボードゲームの礎となった伝説のゲーム「カタンの開拓者たち」を作った人で、その人が親子でデザインしているゲームなので、日本語版ではわざわざ「トイバー親子の王国騒動」とタイトルが付けられている。
一般の日本人は「トイバー親子」なんて言われても誰だかわからない気がするが、「王国騒動」の部分はなかなか語感もよく名訳だと思う。
さて、冒頭の話に戻そう。
税金を取られる側のゲームの核心は「資産が減るのをなるべく回避してお金を貯めるゲーム」だったが、 税金を取る側のゲームは「反発が起こらないように調整しながら出来るだけたくさんのお金を集めるゲーム」と言える。
そう、これはまさに、徴税そのものだ。
立場を「取る側」にしたら、徴収する金額を決めるというアクションが加わり、必要な金額と徴収される側の心情を天秤に掛けるジレンマが生じ、ゲームはより「徴税」というテーマに肉薄していく。
あなたが先ほど「税金」というテーマでどのようなゲームが作れるか考えた時、「取る側」と「取られる側」、どちらを想定しただろうか?
僕たちのほとんどは税金を「取られる側」なので、プレイヤーが「取られる側」であるゲームを想像しがちだと思うが、いつもと違った立場を取るだけで、よりテーマが生きてくるというのは、重要な発見だ。
「取られる側」のゲームを想定したあなたは、トイバー親子のセンスに近い物を持っていると言えるかもしれない。
余談だが、この「立場を変える」という話から見て面白いボードゲームがある。現時点で日本語版は発売されていないが「Vast」というボードゲームだ。
そのゲームではファンタジー世界の洞窟を舞台に、騎士やゴブリン、ドラゴンなどプレイヤーが異なる役割を演じながらそれぞれの勝利条件の達成を目指すのだが、面白いのは、プレイヤーの役割の一つに「洞窟」そのものがある。
詳しいルール説明はしないが、洞窟プレイヤーは、自身を崩壊させ、他のプレイヤーたち全員を飲み込むのが目的となる。
これも立場の転換が面白いゲームを生み出した好例だ。人間や生き物が存在するゲームの中で、あえて意識を持たない(このゲームに限っては意識があるのかもしれないが)無機物である洞窟をプレイ可能なキャラクターとして設定するのは奇抜な試みだが、このゲームでは成功していると言えるだろう。
さて、また話を戻そう。
長くなったが、ここまでが今回の話の半分だ。税金をテーマにしたゲームとは何ぞや、ということと、税金というテーマは「取られる側」より「取る側」で作った方がテーマが生きる、というのが話の半分。
そして残りの半分はこれから書くが、取る側の主目的である「徴収」部分をどうやってボードゲームで表現するのか? というのが後半の話。
まずは、お預けを食った犬のように「まだかまだか」と開けられるのを待っている、この箱をようやく開けてみよう。
ルールブックは簡単な物だ。UNOほど簡単ではないが、プレイ例をふんだんに盛り込みながら8ページに収まっている。
最後のページにはトイバー親子が仲良く並んだ写真が載っている。息子は海外ドラマから抜け出してきたようなイケメンだ。
色々なコマやタイルが入っているが、今からの話で一番重要なピース、それは商品タイルとルーレット、そしてこの砂時計である。
商品は3種類ある。パン、大理石、道具だ。どれも国民が汗水垂らして作り出した労働の結晶だ。
そして国王であるあなたは、臣民からこれらの生産物を物納として徴収するのだ。
情けは捨てて考えてみよう。
これらの商品をなるべくたくさん徴収したいが、取りすぎると暴動が起こる。国民もただ黙って従うだけではない。
ではどれだけ徴収すればいいのか。いや、あなたは強欲な悪王だ。「どれだけ残すのか?」と言う方がふさわしいだろう。
それを決めるのがこのルーレットだ。毎回、徴税の前にこのルーレットを回す。ルーレットには2、3、4、5の4つの目があり、それぞれに国民の姿が描かれている。数字が大きくなるほど彼らは憤怒に燃える形相に変わっていく。
そう、この数字はその時の国民の感情、そして彼らのために残すべき商品の量を表しているのだ。
例えば「2」の目が出た場合、国民たちは3種類全ての商品を少なくとも2個ずつ残しておくことを望む。「5」の目の怒れる国民たちは、5個ずつの商品が残されていないと気が済まない。
そして国民感情が読み取れたら、いよいよお待ちかね、徴税のお時間だ。
後半の話のキモはここからだ。
国民の要求がわかっているなら、そのギリギリまで搾取すればいい。そうであればやることは簡単だ。
しかしそう単純でないところが、このゲームの面白いところだ。
プレイヤーはそれぞれ、現国王か、次期国王になろうと目論む各地の王族たちを演じている。そしてその王族たちが皆、それぞれの徴税権を持って国民たちから物品をむしり取っていく。
つまりあなたが日本とアメリカと中国の政府から別々に税金を取られるようなものだ。
そうすると何が起こるのか。
あなたは国民感情ギリギリまで徴収しようとする。しかし他の王族たちも同じように考えているので、結果的に取り過ぎて暴動が起こってしまうのだ!
この仕組みをゲームで表現するとしたら、どうなるだろう。例えば各自が徴収したい量を裏向きでビッドして、一斉に公開し、各自が取れる量、それから暴動が起こるか否かを決定するという方法が考えられる。
しかしこれだと他のプレイヤーがどれだけ徴収しようとしているかが全く見えない状態でのビッドになるので、かなり高度な駆け引きと相場の読みが要求される。
それに暴動が起きる可能性の読み解きが非常に難しく、いきあたりばったりなプレイになる恐れもある。
もっとゲームとしての間口を広く、尚且つ楽しさを増幅させるやり方はないか。
そのためには、ある程度他のプレイヤーの考えも読み取れて、暴動が起こる可能性も読みやすく、それでいて情報過多にならないようにまとめる必要がある。
そんな仕組みが作れるだろうか?
ヒントはこれだ。よくある砂時計である。
時間制限を設けるのだ。でも何に?
もう一つヒントを出そう。
神経衰弱のように、裏向きで並べられた商品タイル。一枚だけ表になっている。
砂時計、裏向きの商品タイル、そこからの徴収……。
答えは一つしかない。
そう、商品の早取り競争だ!
「それでは紳士淑女諸君、ルールを説明しよう。
ここに並べられている商品タイルが、今国民が持っている物品の全てだ。商品には3種類あり、それぞれのタイルには、1種類の商品が1個から3個描かれている。あなた方は徴税というお題目で、ここから好きなだけ物品を徴収していい。
スタートは同時で、全員が一斉に取っていく。砂時計の砂が落ちきったら終了だ。
ただし、一度にめくって見れるのは、一枚だけだ。一枚めくって、次のが見たくなったら、前のは裏向きに戻すんだ。
後でちゃんと説明があると思うが、あなた方のご大層な銅像……、銅像か石像か知らないがね、それを建てるには、建てる場所に応じて所定の物品が必要だ。だから自分がどこに銅像を建てたいのか、つまり何の物品が必要なのかは、常に頭に置いておくことだ。
一枚ずつめくって、欲しければ取って自分の前に裏向きに確保する、それを繰り返してどんどん徴収していく。
だが心に留めておくことだな。自分に必要な量ばかりを気にしていたら、取り過ぎて暴動が起こるぞ。あなたのライバルたちも同時に徴収していることを忘れるべきではない。
場に残っているタイル、つまり国民に残される商品の数が少なくなってきたら、暴動が起きそうなのか否か、あるいはもう起こってしまうことが確定しているのか、その辺りをよく見極めるんだ。
砂が落ちきったら、誰でもいいから終了の号令を掛けて欲しい。そしたら徴収したタイル、それから国民に残されたタイルを、全て公開するんだ。
もし国民の要求する数の商品が残らず、不幸にも暴動が起こってしまったら、最も強欲にその商品を徴収した者が、その商品のほとんどを国民に強奪される。あまり民を甘く見ない方がいい。追い詰められた彼らは容赦が無いぞ。
ちなみに、砂時計はたったの20秒だ。限られた時間でいろんなことを考えなきゃいけない。王様は大変だな。
それでは、王家の務めに則って、正々堂々と搾取してくれ給え……。」
リアルタイムで一斉にタイルをめくり合う。しかも制限時間は20秒。自分が必要な商品も見つけないといけないし、他人がどれだけ取っているかも気にかけた方がいい。国民にどれだけ残されるかも数えないといけない。考えるべきことはたくさんあるのに、時間は容赦なく過ぎていく。
これは徴税というシステムを良く表していると思う。
現実世界の徴税に競合プレイヤーはいないが、国で例えるなら、限られた時間で国家予算を組み、必要な税収を算段し、時流に合わせて税額を調整する。調整している最中にも、財政を取り巻く情勢は刻々と変わっていく。常に的確な判断と適切な補正が必要だ。そして当然、取り過ぎたら叩かれる。
この徴税というテーマとタイル早取りシステムの鮮やかな融合が、後半の話の要点だ。実に見事なゲームデザインがなされている。
さて、これで、今回書きたかったことは全て書いてしまった。
けれどせっかくだから、その他の要素もひと通り紹介することにしよう。
まずは国王たちが彫像を建てようとする王国がこちらだ。
このマップはモジュラーボード式になっていて、いくつかのマップタイルを組み合わせて作る。
マップは序盤では半分くらいが裏向きで隠されており、ゲームが進むにつれて少しずつ明らかになる。
そして建立していく彫像コマがこれだ。
彫像は各プレイヤーの個人ボードにストックされている。このストックがなかなか面白く、コマがきれいに並ぶよう溝が設けてあり、さらに目盛りが付いているので、一つずつ取っていくと、自分があと何個のコマを持っているかがわかる。
ゲームの目的はより多くの彫像を建てることであり、また持っているコマの数により民衆からの慈悲が受けられたりするので、こうして数が一目でわかるようになっているのは非常に親切だ。
彫像は毎回徴税の後に、集めた物品を使って建立する。
マップには数種類の土地があり、それぞれの土地で建設コストが異なる。コストの高い土地は、一度に置けるコマの数も多い。
コマは基本的に隣接して置いていく必要があり、土地も先着独占なので、コストとの兼ね合いやルート争いも踏まえて、計画的な建設が求められる。
また、この国の王族は国民から一様に嫌われているわけではなく、いくらかの支持は集めている。
支持者はこのタイルで表され、像を建てた後に最も支持者を集めているプレイヤーは次期国王となる。
次期国王となったら、マップの上にある「王家の年代記」に名を連ねることができ、そこに彫像コマを置くことで、さらに自分のコマを減らすことができる。この年代記はゲームの進行表も兼ねている。
だが新しいリーダーには必ず反発が付き物で、次期国王の元からは決まった数の支持者が去って行く。
支持者は暴動により商品が強奪された場合にも減少する。
反対に、彫像を建てた時に支払ったコストにお釣りが出た場合、そのお釣りがもらえない代わりに支持者が増える。気前の良い王には支持も集まるのだ。王も民衆も、みな現金なものである。
先ほど少し触れたが、建てている彫像の数が最も少ないプレイヤーは、徴税の際に国民から慈悲を得られる。
国民が慈悲を見せているかどうかは慈悲タイルの裏表で表され、慈悲を受けているプレイヤーは、徴税で集めた商品を1個ずつ少なくカウントしてもらえる。
こうして徴税と建立を繰り返し、先に全ての像を建立しきったプレイヤーが勝利する。あるいは、王家の年代記が終盤に入ると、ゲーム終了の引き金に指がかかる。
年代記の終盤の5マスには数字がかかれており、そのマスに入った時点で、像の建立数が最多と最少のプレイヤーで数を比べ、その差がマスの数字を超える場合、即座にゲームは終了する。
像を最も多く建てることができたプレイヤーが勝利し、騒動はここに決着する。
これは、とある国で巻き起こる、欲張りな王様と、怒れる民の王国騒動。
何をするにも税金に取り囲まれている我々が、少しだけ「取る側」の苦労を垣間見る。
でも難しく考える必要はない。
このボードゲームは、税という制度を戯画化して、ひたすら面白おかしく仕上げたスラップスティックだ。
砂時計を裏返したら、さあさあ喜劇の幕開け。
ドタバタやって、騒いで、笑って、この喜劇を楽しめば、それでいい。
- タイトル
- Tumult Royale
- デザイナー
- Klaus Teuber, Bnejamin Teuber
- アートワーク
- Franz Vohwinkel
- パブリッシャー
- KOSMOS
- 発売年代
- 2010年代
- プレイ人数
- 4人まで
- プレイ時間
- 1時間くらい
- 対象年齢
- 小学校中学年から
- メカニクス
- 同時アクション, モジュラーボード