2008 / Vlaada Chvátil
パニック。何かに追い立てられ、焦りや不安によって、正常な判断が困難になる。
多くの場合、それは差し迫る時間制限、予測不能の状況、そして生命の危機などにより起こる。日常において頻繁に発生する事態ではないため、いざ起こってから狼狽、奔走し、日頃の危機意識の甘さを恥じるのである。
さて、ここに集まった皆様は、普段そういった状況とは無縁、あるいは無縁だと信じている方々に違いない。しかし所変われば、あらゆる緊急事態を想定し、日夜訓練を重ねる者達もいる。
左手の大きな窓をご覧頂きたい。その遥か向こうに浮かぶ、巨大な宇宙ステーションが見えるだろうか。そこでは今も星域外探査任務に従事する飛行士とその訓練生達が厳しい特訓に励んでいる。実際の任務で遭遇し得る様々なトラブルをシミュレーションし、あらゆる不測の事態に対処できる人材を育成するのだ。
本日はそういった我が国における宇宙開発の最前線を余す事なく披露し、皆様の賢明かつ惜しみない援助を賜るべく、こうして列席を募った次第である。
それでは、正面のモニターに注目頂こう。画面はステーション内の訓練施設とリアルタイムで通信している。今教官の話を熱心に聞いている三人の若者は、先だって基礎学科を履修したばかりの、未来ある飛行士の卵達だ。彼らはこれから実地訓練に臨む訳だが、事前に我が国の誇る最新の仮想訓練システムを使用して、実務さながらの環境で星域外探査を模擬的に修練する事になっている。
これから皆様には、優秀な士官候補生達の訓練風景をご覧頂きながら、輝かしい我が国の将来に思いを馳せてもらいたいのである。もちろん、お帰りの前にはゲート横の特設窓口にて資金援助の申請もお忘れなきよう。
——
教官「今から君達には、大きさから設備まで本物の探査船そっくりに作られたこのシミュレーターに入って、実際の探査を模した仮想訓練をしてもらう。それから今回は事情により、君達の事はコードネームで呼ぶ事にする。いや、なに、ちょっとしたプライバシーの問題だ。特に気にする必要はない。当然、君達同士も互いにコードネームで呼び合うように。とは言え、今日初めて顔を合わせた訳だから、名前も知らないだろう。今は知らないままでいい。まず一番背の高くて体格のいい君は、レッドだ。女性の君はブルー、眼鏡の君はイエローだ。覚えたか?」
三人「はい、教官!」
教官「よろしい。では早速中に入ってもらおう。任務の流れや各機器の操作方法については、君達がどれだけ真面目に学科を聞いていたかによるが、もちろん問題は無いはずだな。それから各自の役割も既に伝えてある通りだ。艦長はレッド。通信担当官はイエロー。ブルーは今回特別な役職は無いが、単にくじ引きでの決定だ。深く考える必要はない。よし、それでは入りなさい」
ブルー「ちょっと、押さないでよ」
レッド「ん、何か言ったか?」
イエロー「え、ぼ、僕は何も……」
教官「まずはブリッジに集まって、メインコンピューターが起動しているか全員で確認して欲しい。スクリーンセーバーが立ち上がっていたら、解除してくれ。いや、気持ちは分かるが、こればっかりはどうしようもない。スクリーンセーバーにはスポンサーの広告が出るからな、無効には出来ないのだ。それでは、準備はいいか? では、これより仮想訓練を開始する!」
レッド「みんな、よろしく頼むぞ! 俺の事はレッドと呼んでくれ。まずは艦全体をカバーできるよう、一人ずつ両舷に散ろう。ブルーは左舷、イエローは右舷に向かってくれ」
ブルー「まあ、今回はあんたが艦長って事だから、従うわ」
イエロー「ぼ、僕も異論なしです……」
ブルー「早速、主導権握られちゃったわね。なんかちょっと気に入らないけど、今回はくじ運が悪かったって事にしといてやるか。ええと、左舷に出るドアはこれね。はいはい、そんなに大きな声出さなくても聞こえてるわよ。ブルー、左舷に到着。バリア? 何よ、バリアって、ああ、シールドね、了解。左舷のシールドはチャージレベル1。中央は? 各エリアともにレベル1。まあ、教科書通りね。他の部分も後で確かめておかなきゃ。そうね、イエロー、あんたも責任重大よ。さて、まず何からやるべきか。下部デッキのリアクター残量も確認しておくべきね。セオリー通りの初期配備なら、だいたい頭に入ってるんだけど。……イエロー、あなた、考えてる事が口から漏れてるわよ。何が起こるか分からないから、勝手な行動は謹んで。……とは言え、シールドにはチャージしておくべきかしら。左舷のシールド容量は最大でレベル2、確か左舷リアクターの初期容量はレベル2だから、チャージしてもリアクターのエネルギーはレベル1だけ残るわね。それならいざという時も左舷のヘビーレーザーにはチャージできる。下部デッキのライトレーザーは独立動力だから、リアクターが空になっても使えるし、すぐに下部デッキに降りてリアクターを再チャージすれば問題ないはず……、それで下部中央リアクターのエネルギーを3レベル分こっちに流してくれば、中央リアクターの残容量は、ええといくつになるかしら……、初期レベルは3で固定だったはずで、予備のカプセルは3本しか無いから、割るペースを考えると……。え? 何? ごめん、聞こえてなかった。嘘! 左舷方向に敵影? イエロー、敵の正体は判別できてる? ……なんだ、ファイターか。びっくりさせないでよね。雑魚じゃない。冷静に対処すれば恐るに足らない相手よ。ちょっとすばしっこいのが厄介なだけ。ええ。大丈夫。落ち着いて。とりあえず左舷のヘビーレーザーを起動するわ。念のため、シールドもチャージしておく。レッド! 聞こえてる? 中央下部デッキに降りて、パルスキャノンを動かす準備をしておいて欲しいわ。グラヴォリフトを使って。……ねえ、ちよっと、レッド、あんた……、まあいいわ。とにかくリフトで下に降りて。レッド、一応艦長のあんたに確認するけど、ヘビーレーザー発射するわよ。……。オーケー。ええ、分かってる。ブルー、ヘビーレーザー発射準備完了! 5、4、3、2……、発射! ……。当たったみたいだけど、足りないか……。一度下に降りて左舷リアクターを再チャージするわ。それでもう一度戻ってヘビーレーザーを撃つか、そのまま左舷下部のライトレーザーを撃つか……。ちょっと待って! タイミングを合わせなきゃ、シールドに吸収されてしまう。シールド……、そう、シールドにチャージしたのは失敗だったわ。そのエネルギーがあれば、ヘビーレーザーを続けて2発撃てた。それでファイターぐらいなら近づく隙も与えず撃墜できてたはず。シールドにチャージする前に、その可能性も考えられたのに、しっかりしなきゃ。軽はずみな行動は命取りになる。先の先まで考えて、最善の方法を選択していかないと。……ともかく、まずはファイターを撃墜しなきゃ。上に戻ってヘビーレーザーをもう1回撃ってもいいけど、せっかくレッドが待機してるし、レッドのパルスに合わせてここにあるライトレーザーを撃つのが効率的ね。……何? イエロー、どうしたの? 聞こえてなかったわよ、また通知? ……え? レッド、ちょっと黙って! ベヒモス? 嘘でしょ、何でそんなやつが……。とりあえずファイターを落とすわよ! レッド、タイミングを合わせて、パルスキャノンを発射して。パルスよ! あんた中央下部デッキにいるんでしょ! そこにある大砲をぶっ放してって言ってるの! 最初から言ってるわよ、バカ! 行くわよ、3、2、1……、発射! ……よし、命中! まだだわ。あと少し。もう1発いける? ……発射! やった、撃墜よ! ……あんた、そういうキャラなの? ……最低ね。まあいいわ。とにかく次は……、 ……、 ……。 ……! ……、 ……、 ……。 ……! ……ちょっと、今の何? 通信が途切れたわ。通信システムの不具合かしら。まあ、いいわ。さて、一旦上に戻っておくか……。イエロー、どうしたの? え、陰謀? 何の話よ。急にどうしたの。ねえ、イエロー、待って。落ち着いて、何を言ってるか分からないし、ねえ、どうしたの。一回黙って。イエロー、ちょっと、……イエロー! ……しっかりしなさい! 怖いのはみんな同じよ! 通信担当官がパニくってどうするの! みんな……、みんな必死にやってるのよ! 苦手とか、そんなのどうでもいいわよ! 役立たずなら、一回くらい役に立ってから死になさい! 私だって……。イエロー、みんなで力を合わせましょう。もう、落ち着いた? オーケー。じゃあ、イエロー、ベヒモスの特徴を教えて。今は、あんたの知識が頼りなの。レッドはあんな感じだし。うん。そうよね。普通にやっても勝てる相手じゃない。そう、準備する時間はあるわけね。何か弱点は無いのかしら。イエロー、他に知ってる事は? 何でもいい。糸口が欲しい。何よ、今さら。このまま待ってたってどのみち危険よ。ねえイエロー、危険って、もしかして……。……やっぱり。そう。インターセプターね。でも、考える前にやらなきゃ。誰かさんの言う通りよ。インターセプターを動かすためには、バトルボットが必要だったわよね。ちょうど私のいる左舷上部デッキにインターセプターの発着ポートがあるし、このすぐ下のデッキにバトルボットの格納庫もある。あんた達はそれぞれ役割があるし、離れられるのは私だけ。……ふう。……覚悟を決めなきゃいけないって事ね。イエロー、……情報ありがとう。あんただって、少しは役に立つじゃない。ただし、さっき私の事を劣等生って言った事だけは、絶対に許さないわ。無事に戻ったら、一発殴らせてね。絶対よ。絶対、帰ってくるから。……ん? ちょっと待って。レッド? 今何て言ったの? あんた、まさか、一番動かし方も分かってなさそうなあんたが、乗るの? ラジコン動かすんじゃないのよ? そりゃあ、そうだけど……。まあ、でもあんたらしいわね。……イエロー、インターセプターの一撃だけで撃破できる? ……そうよね。そんな簡単じゃないわよね。レッドに頼りっきりってのも、私のガラじゃないし。……って、早いわね! いいわ、そのまま急ぎましょう。レッドの2発目が無理なら、どうしたらいい? イエロー、あんたの作戦を聞かせて。その眼鏡が伊達じゃないってところを見せて。今はどんな作戦でも、すがらなきゃいけないの。……なるほど。素直に高火力をぶつける。シンプルな作戦ね。だけど、それも簡単じゃない。船外にいるインターセプターと、不安定な通信の中でぴったりタイミングを合わせなきゃいけない。分かったわ。ただし、ちゃんと知らせなさいよ。それじゃあ、イエロー、私達は私達の準備をしましょう。イエローは今右舷上部にいるわね? そのまま中央上部に向かって、いつでもヘビーレーザーを撃てるように待機していて欲しい。私は下に降りてから、中央リアクターのエネルギー残量を確認する。レーザーが撃てなかったら論外だからね。オーケー? じゃあ、始めるわよ。さて、まずはリフトで下に……。ちょっと待って、リフトが使用中だわ。そっか、今レッドが上がってきてるんだ。どうしよう、待つか……。いや、梯子で降りよう。うっ、結構長いな……。仕方ない。早く行ってエネルギー残量を確認しなきゃいけないし。イエロー、リフトが使用中で、梯子で降りてる所。……ベヒモスか。初めての仮想訓練で、そんなやつが出てくるなんて……。よほど私達が優秀だと見込まれてたのかな。……いや、違う。むしろ逆かもしれない。知識ゼロのレッド、弱気で妄想癖のあるイエロー。そして……、人の話を聞かずに何度も怒られていた、私。今年度の仮想訓練の1回目として、成績の良い順番に3人集められたはずが、何かの手違いでリストの一番下から3人が集められたとしたら……。あり得る。認めたくないけど、あり得るわ。だからこんなに私達の実力にそぐわない、高難易度の敵がプログラムされてるんだ。……悔しい。くそっ……、悔しい! 私だって……、一生懸命やってるつもりなんだ……! ……やってやるわ。絶対生還してやる。そして私を見くびった上の連中を、泣いて後悔させてやる。……え? イエロー? ごめん、何度か呼んでた? こっちはちょうど左舷下部に着いたところ。思ったより梯子で手間取っちゃった。レッドはもう飛んでるのね! 急いでリアクター確認するわ。……待って。嘘。……ねえ、レッドはもうバトルボット連れてるのよね? ……おかしいわ。今、レッドがバトルボットを取り出したはずの格納庫の前にいるんだけど……。全員揃ってるの。バトルボットは、1体も減ってない。……レッド! 聞こえてる? レッド! ねえ、レッド……。あんた一体、誰と一緒にいるの……? イエロー、一体どうなってるのよ! レッド! あんた何してるの……! なんで答えないの……? ……え? イントルーダーって、まさか……。嘘よ、そんなの……、聞いてないわよ……! レッド! 応答して! レッド! バカ! この脳筋バカ! いつものでかい声はどうしたのよ! ねえ……、レッド……。答えてよ……。イエロー……。いやよ……。こんなの……。いや……、いやあああ!」
レッド「さて、こいつがロケット、ではなくて、何だったか、そう、確かレーザー砲、バリアのスイッチはこれか……。みんな、それぞれ位置に着いたか? よし、まずは念のため、中央および両舷、各ゾーンのバリアを確認しておこう。使わないに越した事はないがな。何があるか分からん。そう、すまん、シールドだ。左舷はレベル1だな。中央も1だ。それから通信担当官のイエローは、艦内コンピューターからの通知に気を配ってくれ。俺はこのまま中央で待機する。何かあればすぐ連絡してくれ。おっと、何かを踏んだな。これはエネルギーの管か。この管を通して下部デッキの動力源からレーザーやバリアにエネルギーを供給しているんだな。確かレーザーとかバリアに、それぞれ下部デッキからエネルギーを送り込んでいるとか、そんな話だったか。とりあえずバリアにチャージしておこう。こちらレッド、バリアにチャージ完了。よし、これで中央の守りは鉄壁だな。……ん? チャージしたぞ。思い立ったらすぐ行動、だ。どうした? 何の話だ? さて、こちらはレーザーか……。一度ぶっ放してみたいものだが……、いや、いかんいかん、これは任務だ。ましてや俺は艦長だ。軽率な行動は慎まなければ。ん? ヘッドセットから何か音声が流れ出したぞ。何か間違えてボタンに触ってしまったか? くそっ、機械というのはどうも苦手だな。ええと、どこを押せば……、いや、違う、この音声は……! ああ、イエロー、聞こえている。緊急事態だな。左舷方向……、ブルー、聞こえるか! おい、ブルー! 畜生、通信が切れているのか? ブルー! ああ、聞こえているな、おい、任務中だぞ、気を抜くな。敵は……、イエロー、敵は何か分かったのか? そう、そうだ、そのファイターだ。イエロー、心配しなくていい。俺が艦長を務めている限り、俺の船には傷一つ付けさせやしない! そうだ、大丈夫だ。まずは……、そうだな、そいつの特徴を教えてくれ。なるほど、学科で教わった通り、素早い敵か……。理解した。どう対処すべきか、少々考えさせてくれ。……え? パル……、何だって? パルス……、ヴォ……、ヴォリ? え? どういう意味だ……? ブルー、落ち着いて、分かりやすい言葉で説明してくれ。リフト? よし、リフトだな。なんだ? ああ、許可する。派手にぶっ放してやれ! ……リフトで下に降りて、何をするんだったか。ヴォとかパルがどうのと言っていた気がするが……。……ぐっ! 凄い震動だ。レーザーの反動か。ブルー、どうだ、やったか? まだか。そう簡単にはやられてくれないか。さあ、そしたら次は俺の番だ。ブルー、次は俺がこいつを押せばいいんだな? このパル……、何だったか……、オーケー。いつでも言ってくれ。俺の船の周りを飛び回るくそったれの蝿め、粉々にしてやる! ……ううむ、号令はまだか。待っているのは性分ではないんだが。この緑色のボタンは……、バリアかもしれない。念のため押しておこう。……予備カプセルのエネルギーが減っていくぞ。そうか、このカプセルからエネルギーが充填されるんだな。よし、これでチャージも万全だ。ん? どうした、イエロー、何だ? ベベヒ? 落ち着いてくれ。今また何か音声が聞こえた気がしたが……。またブルーが? おいブルー! 気を抜くなと言ったはずだぞ! ブルー! まさか……気を失っているのか? 大丈夫か! 今助けに行く! おっ、繋がったか! ブルー! どこにいる! ぐっ……、だま……、なんだと? だが無事で良かった! 何か知らんが、また出やがったらしい! ブルー! 俺の出番だな? パルス……、え? どれの事だ? そうだ、そこにいるが、パルスとやらは見当たらないぞ。ああ、だったら最初からそう言ってくれ! よし、準備オーケーだ。行くぞ! ……どうだ? やったか? くそっ、しぶといやつだな。さあ、もういっちょ……、オラァ! てめえの汚ねえケツに特大のパルスをぶち込んでやるぜ! ……ああ、すまん。ついカッとなっ……。 ……、 ……。 ……、 ……! ……。 ……。 ……ーい、おっ、通じたな。何だったんだ? 今のは。そうか、ただの不具合か。ん? どうした、イエロー、急に大声を出して。何だ? 劣等生とは誰の事だ? ブルーと会話しているのか? よく分からんが、さっきのやつはどうなった? おい、聞こえてるのか? どんなやつが現れたんだ? 今度のやつは、少しは手応えがあってくれるといいんだが。少なくとも、俺のパルス1発で……、いや、2発だったか……、まあ、どっちでもいい。とにかく、たかがパルスでくたばるなんて、まずは足腰が貧弱だ。スクワットが足らん証拠だな。ん? 死ぬとは何の話だ。俺達は死なないぞ。安心しろ。俺が守る。イエローも、ブルーも、船も、地球も、全て俺が守る! それで、どういう状況なんだ? 頼む、教えてくれ。ベヒモス? さっき現れた2匹目か。とにかく、そいつをぶちのめしてやればいいんだろう。何を心配しているんだ? 細かい事を考えるな。なあに、相手の火力なんてのは、やられる側が考えたらいい。先手必勝。考える前にやる。俺達は常にやる側だ。そうだろ? ほら、パルスが俺に発射されたくてウズウズしてるぜ。何が危険なんだ? 火の付いた俺よりも危険な物があるなら、持って来て欲しいもんだ。なあ、ブルー、イエロー、そのインターとか言うのは何の事だ? パルスよりも強力な武器なら、俺に任せてくれ。どちらが危険か、体で分からせてやる。……なるほど。迎撃機か。この船を離れて、あのデカブツに突っ込むわけだな。操縦はそのロボットに任せておけば、勝手に敵の目の前にご案内、と。簡単じゃないか。さっきから何をごちゃごちゃ言ってるんだ? 今からそのロボットを叩き起こして、リフトで上がれば、俺の愛機が待ってるんだろう? 悪いが、お前達の出番は無い。そのなんとかインターには、俺が乗る。さて、それでは早速、寝坊助達を起こしに行くとするか。ブルーとイエロー、しばらく船を頼む。分かってないも何も、ロボットが動かしてくれるんだろう。それに、敵の親玉に一発お見舞いするなんて、いかにも艦長の役目だろう? 確かブルーのいる左舷にロボットがいると言っていたな。走って行こう。楽しくなってきたぞ。こちらレッド、ロボットを起こした。インターは上だったな? 早いというか、ボタンも押さずに勝手に付いて来たからな。なかなか優秀なやつじゃないか。ではこのままリフトに向かうぞ。何? 俺は2発でも3発でもいけるぞ。朝食のシリアルに混ぜれるくらい粉々にしてやる。……そうか、まあそういう事情があるのなら、分かった。俺の攻撃を援護してくれるんだな。頼む。できれば俺のタイミングに合わせてくれ。待つのは得意じゃないんでな。もちろん、合図は送らせてもらう。……リフトに到着。このまま上部デッキに上がる。さて、このリフトが上がっていく時の感覚が、どうにも好きになれんな。まな板に乗せられた肉みたいな、嫌な気分だ。お前も感じるか、相棒。ロボットには分からんか。ハッハッハ。それにしても、トラブルってのは次から次に起こるもんだな。俺が艦長でなければ、今頃どうなっていたか。よし、着いたな。俺の愛機はどこだ。おっ、これか。思ったより小さいな。俺の鍛え抜かれた肉体が収まるといいんだが。風防はどうやって開けるんだ? おい、ロボット! どこに行った? さっきまでいたはずだが……。ああ、あんな所にいる。おい! 何を突っ立ってるんだ、こっちに来て乗り方を教えてくれ! そうだ、早く来い。何だ? 早く開けてくれ。畜生! 何ぼんやりしてる! 壊れちまったか? 何も言う事を聞きやしない。仕方ない。力尽くで開けるか。……ふん! よし、開いたぞ。操縦席には、お前が乗るんだな。おい、さっさと乗り込め。何だ、職務放棄か? ほら、押してやるから入れ! そうだ。まだ動かすなよ、俺が乗ってからだ。こちらレッド。インターに乗船完了した。そっちの首尾はどうだ? 座席が狭くて、じっとしていると気が狂いそうだ。隣にいる連れも無口なやつだから、退屈なんだよ。そうか、なるべく早く頼む。離陸しておいてもいいか? 分かった。では先に外で待っておく。聞こえたか、ロボット。発進してくれ。そう、素直になってきたじゃないか。その調子で敵の近くまで行ってくれ。……さらば、我が船よ。すぐに戻る。……見えてきたぞ。あれが敵の親玉か。ロボット、そのまま敵に接近してくれ。すぐそばまで行かないと、ダンスのお相手をしてくれないらしいからな。そうだ、その辺りで一旦速度を緩めてくれ。おい、聞こえてるのか、ひとまずストップだ。ロボット! 貴様、また職務放棄か! 停止しろと言っている! ……何だ、おい、それは。何のつもりだ、俺にそんな物を向けて……。やめろ……、言い過ぎたのは悪かった、頼む、それを下ろしてくれ。そんな物を……、その銃口を、俺に向けないでくれ……! そうだ、ヘッドセットの通話ボタン……、あっ、貴様……! そのヘッドセットを渡せ! 一体、何なんだ、貴様は……! ただのロボットじゃないな! その銃をよこせ! ぐっ! 貴様……! うっ……、苦しい……! 息が……。なんて力だ……、呼吸が……、くそ……、俺が……、俺がやらなきゃ……、いかんのだ……、ブルー……、イエロー……、俺が……、お前達を……、この地球を……、守る……、から……」
イエロー「僕が艦長じゃなくて良かった……。でも通信担当官だから、たくさん喋らなきゃいけないな……、嫌だなあ……。あ、ヘッドセットの通話ボタンは……これかな、こちら、イ、イエロー、右舷上部デッキ到着です。バリア……、ああ、シールドですか、ええと、どこを見たらいいんだったっけ……。これか。こちらもレベル1です。チャージしますか? まだしない方がいいでしょうか……? どうしよう、レッドの指示を待つべきだよな。あ、はい、が、頑張ります……。通知は今のところ無しです。どうしよう、チャージしていいのかな……。勝手にチャージしたらまずいかな、いや、でも万が一、僕のいる右舷に何かあったら……。ご、ごめん……! 僕、何か喋ってた……? ちょっと、は、初めてだから、どう動いたらいいか分からなくて……。ふう、緊張するなあ。けれどこんなに静かな宇宙空間に、そんなに危険な敵性存在が現れるのかな……。え? レッド……、チャージしたの? さっきのブルーの話聞いてた……? 何だか不安だな……。ちゃんとチームワークをとっていけるんだろうか。はっ……、来た! 通知だ! ええと、時刻T+1、左舷方向に未確認のレーダー反応! どうしよう……、教官! じゃなくて、レッド! 敵だ! いや、敵じゃないかも……? 確認しなきゃ、ええと、コンピューターの解析結果によれば……。レッド、聞こえる? ブルーも聞いて! ブルー? 左舷方向だよ! 聞こえてる? どうしよう……、ブルーに何かあったのかな……? ブルー! ああ、ブルー、良かった、通じた。レーダー反応の正体は、……ファ、ファイターだ! どうしよう、ほんとに敵だった……! ああ、ブルー、そんな事言って、ほんとに大丈夫なの……! だ、だって、こっちに攻撃してくるんだよ……! わ、わかったよ……。し、信じるよ……。特徴は、さっきブルーが言った通りだよ。学科で教わった通りだ。速度が速いけど、武装はそれほど強力ではなかったと思う……。うん、できればこっちの火力は上げておきたい。せっかく砲撃が当たっても、威力が足りなければ敵のシールドに吸収されてしまうからね……、なるべく一度に火力を集中させたい。ブルー、分かってると思うけど、もう射程内だ……。……え、もうすぐに? ま、まだ心の準備が……、ちょっ……、ブルー、5秒は急過ぎるよ……! ぐっ……! ……待って、コンピューターを確認してみる。……当たった、みたいだね。でもまだ落とせてはいない。うん、そうだね。僕は引き続き警戒しておくよ……。ふう、これが仮想訓練か……。まるで本物の船に乗ってるみたいだ。……誰! そこにいるのは、誰……? ああ、バトルボットか……。こいつらを起動しなくて済めばいいけど。まだ使い方も教わってないし。確か船内の侵入者を撃退したりするのに使うんだよな……。それとインターセプターの操縦もこいつらがするんだったか……。……はっ! また通知だ! なんでこんなにトラブルが……。え? ちょっと待って、何だよこれ……、ベ……、ベヒモス? ブ、ブルー、聞こえてる!? ベ、ベヒ、ちょっと、ブルー! レッド! ああ、レッド、ブルーがまた応答しないんだ! どうしよう、ベヒモスなんて、どうして訓練で現れるんだ……? それも初回の訓練だぞ……? 何か変だ……。僕らの知らない所で、何かが……。まさか……。あ、ブルー! 良かった。通知は聞こえてた? 艦の正面、時刻T+3、巨大なレーダー反応、ベヒモスだ! そう、おかしいよね? やっぱり変だ。訓練でこんなに凶悪な敵が現れるなんて……。もしかしたら、これは訓練じゃなくて、ほんとの任務なのか……? だっておかしいじゃないか。突然コードネームで呼び合うなんて……。プライバシーとか何とか言ってたけど、きっと僕らみたいな出来の悪い訓練生を、誰も行きたがらない危険な航路に実験台として送り込んで……、名前も伏せて記録に残らないようにして、全てを抹消する気なんだ! ねえ……、 ……! ……、 ……。 ……、 ……、 ……! ……、……聞こえる? やっぱりだ! 都合の悪い会話を妨害してる! みんな聞いて、これはやつらの陰謀だ! 組織が劣等生の僕らを実験台にして、こ、この世から消し去ろうとしてるんだ……! 最初から仕組まれてたんだよ! 何がイエローだよ……。だいたい僕みたいな落ちこぼれが、突然呼び出されて……、何を期待してたんだ、僕は……。ブ、ブルー……。……。ごめん、僕ダメなんだ。ほんとはこういうの苦手なんだ……。僕、役立たずで……、ごめん……、ブルー……、ごめん……、レッド……、ごめん……、え? 死、って……、ううん、ごめん、いや、ごめんじゃなくて、大丈夫。そうだね、どうせ死ぬなら、やるだけやって死ななくちゃ。もう、大丈夫。……ベヒモスだね。ベヒモスは、装甲も分厚い上に、シールドも強力だ。ただ速度はそんなに速くないから、対処する時間はあると思う。接近されたらおしまいだよ。さっきのファイターとは、火力も桁違いだから。……弱点は、あるよ。ただ、危険だ。考えたくない。僕からこんな事を提案するなんて……。……そうだね。その……、もしかして、だよ。そう、……インターセプターだ。やつが接近してきた所を、インターセプターで懐に潜り込んで攻撃すれば、致命的なダメージを与えられる。……ええと、レッドは知らないかな。まだ僕らは正式に講習を受けてないから。インターセプターは、迎撃機だよ。そう、バトルボットと一緒に乗り込んで、艦の外部へ飛び立つ。だから、危険なんだ。ブルー、ダメだよ。よく考えて。まだ他にも方法があるかもしれない。ただでさえ飛ばし方も教わってないんだ。危険すぎるよ……。ちょっと待って。そんな事言わないで。そんな……、別れの挨拶みたいじゃないか……。殴りたいんだったら、今殴っていいからさ、だから……! ……え? 今乗るって言った? レッドが……? 何でだよ……。どれだけ危険か分かってないんだよ……! 敵はファイターじゃないんだ、ベヒモスなんだよ! それなのに、何でそんなに……。……レッドらしい、か。そうだね。僕も、僕らしい事をしなきゃ。ブルー、一発じゃ無理だ。それに、インターセプターが船から離れられる距離はほんの僅かだ。射程に入ったら、僕らの船もやつの手のひらに乗ってると思った方がいい。2発目を撃ってる暇はない。……順調だね。オーケー。僕の作戦は、作戦と言うほどの物じゃないけど……、ベヒモスをぎりぎりまで引き付けて、インターセプターの攻撃に合わせて、艦に残った僕らもヘビーレーザーを撃つ。2つの火力を合わせれば、計算では破壊できるはず……。だけど、ちょっとでもずれたら終わりだ。2発目をチャージしてる時間はない。レッド、頼むよ。どれだけ正確にタイミングを合わせられるかが、この作戦の成功の鍵なんだ。……そうだね、ブルー、始めよう。……うん、いるよ、ブルー。僕はどうしたらいい? いつでも動く準備はできてる。分かった。中央に向かう。ついでにメインコンピューターも確認しておく。あの忌々しいスクリーンセーバーは解除しておくから、安心して。何が起こるか分からないから、ブルーもレッドも、気をつけて。よし、じゃあ中央に向かおう。お願いだから、もう通知来ないでくれよな……。これ以上は、対処しきれないよ。……いや、何があっても生き残るんだ。レッドの意思を無駄にしちゃいけない。ブルー、中央に着いたよ。そっちはどう? ……そうか、リフトの事まで考えてなかったな。とにかく、慎重にね。……ひとまず、コンピューターの確認だな。くそっ、またスクリーンセーバーが起動してる。スポンサーだか何だか知らないけど、任務の生命線であるメインコンピューターにスクリーンセーバーが立ち上がるなんて、正気じゃないよな……。大事な情報の確認が遅れたらどうするつもりだ……。とりあえず、解除完了。レッド、良かった。無事乗り込めたんだね。こっちも大丈夫。レーザーに問題は無さそう。エネルギーはブルーに確認しに行ってもらってるから、もう少しだけ待って。ああ、離陸しておいて問題ないよ。ベヒモスもかなり近づいてきてる。あまり近寄り過ぎないようにして。こっちの準備ができたら、後はレッドのタイミングでやってくれて構わない。ブルー、そっちはどう? ブルー、聞こえてる? うん、今どんな状況? こっちは準備完了して待機してる。……そうか、了解。レッドはもう発進したみたいだから、急いだ方がいいかもしれない。レッドの事だから、また先走って突っ込まないとも限らないし……。ん? どうしたの、ブルー? ……え? 当然、連れてるよ。今はインターセプターに同乗してるはずだ。どうしたの? ねえ、ブルー……、何だって……? どういう事……? だったら、今レッドが連れてるのは何なんだ? まさか……。レッド! 応答して! レッド! ダメだ……。最悪の事態だ。ブルー、終わりだよ……、こんな状況、予測できないよ……。ブルー、今レッドと一緒にいるのは、……イントルーダーだ。そう、侵入者だ。……くそっ、何でこんな事に! やっぱりこれは陰謀なんだ……。僕達を任務に見せかけて消し去ろうとする、組織の陰謀……! どこで間違った? 僕は……、どこで間違ったんだ? 組織に殺されるくらいなら……、今ここで、せめて、ああ、自分の手で……!」
せ、静粛に、静粛に……。どうか皆様、落ち着いて欲しい。
……パニックは、いついかなる時でも起こり得る。彼らはその事を、ああ、身をもって教えてくれたのだ。決して彼らが無能だったという訳ではない。訓練には、成功もあれば、失敗もある。重要なのは、本番で失敗しない事だ。あらゆる事態を想定した訓練を重ねるのが、我々の務めだ。例えそれが、まるでパニックそのものであっても。
それでは、本日はこれにて閉会する。資金援助窓口は、諸事情により今回は締め切らせて頂いた。たった今この場にて見聞きした事は、機密情報であるため、くれぐれも口外しないよう……。
- タイトル
- SPACE ALERT
- デザイナー
- Vlaada Chvátil
- アートワーク
- Radim Pech, Milan Vavroň
- パブリッシャー
- Czech Games Edition
- 発売年代
- 2000年代
- プレイ人数
- 5人まで
- プレイ時間
- 30分くらい
- 対象年齢
- 小学校高学年から
- メカニクス
- 協力, リアルタイム