2017 / Mark Swanson
何から話そうか。
きっと長くなるから、コーヒーでも淹れてこようか。それとも、ワインの方がいいかな。夜はすっかり冷えるようになったね。窓から入ってくる風も涼しいよ。君は寒くない?
何かつまめる物も持ってくるね。新しいチョコレートがあるんだけど、どうかな。ああ、でも君は、ハムとか、サラミとか、そういう肉っぽい物の方がいいよね。うん、確かに、君がチョコレートを食べてるイメージは湧かないな。
君が急にやって来た時は、びっくりしたよ。でも、君がこうして話を聞いてくれて、嬉しい。今からするのはね、ボードゲームの話なんだ。と言っても、君は家の中でする遊びよりも、外で思いきり体を動かす方が好きだよね。
それでも、今日はちょっとだけ付き合ってよ。なんだか、君がこうしてここにやって来たのも、僕がこの話をするためだって気がするから。
ゲームの名前は、「フューダム」というんだ。
このゲームはね、すごく大変なんだ。時間も掛かるし、覚えなきゃいけないルールも多い。でも、僕は大好きなんだよ。どうして好きかっていうと……、うーん、理由は上手く説明できないけど、これから君に話しながら、僕もそれが見つけられたらいいね。
さあ、それじゃあ箱を開けよう。すごく大きな箱だね。……この箱の絵が気になる? 独特なタッチの絵だよね。でも、すごく魅力的に描いてあるよ。雰囲気がよく出てる。迫力もあって、かっこいいと思うよ。
この大きなボードは、テーブルの真ん中に置こう。僕のコーヒーを、少しよけて……。よし。見えるかな? もうちょっと近くに来てもらえたらいいんだけど、狭いから、無理かな。ごめんね。これでも、うちの中では一番広い部屋なんだよ。
このボードに描かれてるのは、とある国の地図だ。まあ、とある国、って言い方も変だね。たぶん中世ヨーロッパをイメージした封建社会で、ちょっとだけファンタジーの味付けがされていて、剣と、それから魔法……は無いよね、でもいくつかのギルドがあって、農業や商業のギルド、そうそう、錬金術師のギルドなんかもあって、僕が知らない物ばかりで、見てるとわくわくするんだ。
君はやっぱりこの小さな人形が気になるかな。これは、また後で見てみよう。それまでは、君の近くに置いておくね。
他にも色々入ってるよ。たくさんのカード、乗り物のタイル、それからこのサイコロみたいな駒は、仲間たちだね。サイコロのそれぞれの面で、商人や騎士、僧侶なんかの職種を表してるんだ。僕はやっぱり、錬金術師がいいな。これも、人形の横に並べておくね。
僕もいつか、この国に行ってみたいな。その時は、君もついて来てくれる? こんな風に、並んでさ。……ふふ、冗談だよ。
この地図の周りに描かれているのが、ギルドだよ。ギルドっていうのは、組合みたいな物かな。農民や商人、錬金術師、それから騎士と貴族、僧侶のギルドがある。全部で、1、2、3……、6種類だね。
この6種類のギルドと、取引をしたり、自分がギルドのメンバーになったりしながら、この国で名声を獲得して、国内で一番尊敬される人物になるのが、このゲームの目的なんだ。尊敬される人物、って変わった言い方だけど、どこか別の国から追放されてやって来たプレイヤーたちが、手を尽くして新天地で名誉を勝ち取るというテーマだから、やっぱり最後は尊敬される事が目的なんだね。
名誉挽回のためには、ギルド内の活動で頭角を現していくのが手っ取り早いんだ。もちろん、ギルドと一切関わらなくたっていいけど、なかなかそれも大変じゃないかな。この国にはギルドの機能が深く食い込んでいて、それ無しで名声を得ようとするのは、きっとすごく難しいと思う。
とは言え、ギルドの他にも、評判を上げる手段は色々あるよ。例えば、農奴……ちょっと言葉は悪いけど、封建社会で領主に支配されていた農民だね、その農奴を使って土地を手入れしたり、自分が治めている農園を街にしたり、その街を王様との誓約で封土……つまり王様から借りてる土地みたいな意味かな、そんな風に管理して、王様からギルドでの優遇を受けたりもできる。
もっと、他にもあるよ。王様からの勅命を果たすために奔走したり、作物を収穫したり、遠くの山奥にポツンと建っている修道院まで旅をしたり、時にはライバルを攻撃する事で名前を売る事だってある。
そういう色んな事が、少しずつ自分の評判に繋がって、いくつかの時代を跨いだ時、一番有名になって人々からの尊敬を集めていたプレイヤーがゲームに勝利するんだ。
あんまりお腹減ってなかった? 何も手を付けてないみたいだけど。そんなに、僕の顔ばっかりじっと見つめて、変な気分だよ。少し話が難しいかな。最初から最後まで、全部話すつもりじゃないから、安心して。
じゃあ、そんなにたくさんやる事があって、何をしたらいいの、って思うよね。僕もそう思うよ。何をしたらいいんだろう。できることはいくつもあるから、好きな事をしたらいい。でも、この国の経済の流れを知っていたら、何をすべきか、少しは道しるべになるかもしれない。
経済、って、難しい言葉だよね。そうだな、例えば、この国の東の方には高い山々があるよね。そこから川が流れて来て、荒れ地を通って、森と砂漠の間を流れて、やがて海に出る。海の水は、小さな島々を巡りながら、少しずつ蒸発して、雲になって、いつかまた山に戻って、たくさんの雨を降らすだろう。その雨はまた川になって、同じように流れて、ずっとそれを繰り返すんだ。そういうずっとぐるぐる回って繰り返す何かの流れが、この国のギルドにもあるんだよ。それをこれから少しだけ見てみようか。
6つのギルドが輪になって繋がっているところを想像してみて。農民のギルドが商人のギルドに繋がって、さらに錬金術師のギルド、騎士のギルド、貴族のギルド、僧侶のギルドに繋がって、また農民のギルドに戻る、そんな輪を思い浮かべて欲しい。
その輪に沿って、色んな物が動くんだ。農民のギルドからは、食料や、鉄、木材とかの物資が商人のギルドに運ばれる。商人のギルドでは、それらが商品として販売される。
商人のギルドからも、同じように物資が錬金術師のギルドに運ばれる。錬金術師のギルドでは、それらの物資から乗り物や、火薬の樽が作られる。乗り物はそのままそこで販売されるけど、火薬の樽は騎士のギルドに運ばれる。運ばれた後は、各地での影響力やギルドでの立場を示すマーカーとして、そこで販売されるよ。火薬樽が影響力になるなんて、なんだか複雑な気分だよね。
そんな風にして、あるギルドから、隣のギルドへ、そしてまたその隣のギルドへと、物がぐるぐると運ばれる。流れは一方通行だよ。それぞれのギルドでは、運ばれてきた物が商品のような形で売り出される。そのギルド同士のやり取りは、出荷と仕入れみたいにイメージしてもいいかもしれない。その出荷と仕入れを受け持っているのが、ギルドの親方と職人だ。
ギルドには、親方と職人、それから見習いがいる。ギルドのメンバーになる事ができたら、そのギルドでの影響力に応じて立場が決まるんだ。ギルドへの影響力は、自分にその職種の仲間がいたり、関係した土地を支配していれば、それだけ強くなるよ。
親方になれば、そのギルドから隣のギルドへ物を送り出す事ができる。さっきの例えで言うと、出荷権限を持ってるって事だね。職人になれば、隣のギルドから物を引っ張ってくる事ができる。こっちは仕入れ権限だ。そうやってギルド間で物資を循環させる、すなわちこの国の経済を回すのに一役買う事で、名声はどんどん上がっていくんだ。
つまり、まとめると、ギルドとの関わり方は、2通りあるね。
1つ目は、ギルドとの取引。ギルドで商品を買う事だ。
2つ目は、自分がギルドに所属して、ギルド間での物のやり取りを手配する。隣のギルドに物を送るか、隣から持って来るか、だね。
ふう、一気に説明したけど、付いて来れてるかな。
ちょっと寒くなって来たね。窓が閉めれたらいいんだけど。あ、ごめん、そういう意味じゃないんだ。君がそこにいるおかげで、ちょうど風よけになってくれていて僕は平気だよ。でも、君は直接風が当たるから、きっと寒いよね。上着を貸してあげれたらいいんだけど、サイズが合わないもんね。
どこまで話したかな。そう、ギルドの話だったね。そんな風にして、ギルドからギルドへと物が循環して、必要な物をギルドから買って、この国の経済が回っているんだ。
それなら、ギルド間でひたすら物を動かして、とにかく評判を上げていく事だけが目的になるかというと、それだけじゃないんだよ。ギルドは目的にもなるし、手段にもなるんだ。それがすごく、面白いんだよ。
例えば、この地図を見てみよう。地図の上には、自分の仲間たちを移住させる事ができる。移住する時は、食料を1つ持たせてあげないといけないよ。お腹が空いてたら、引っ越しの途中で倒れちゃうからね。
それからもちろん、地図上にいる仲間たちには、定期的に食料をあげないといけない。ワインでもいいよ。でもワインをあげると酔っ払って戦わなくなるんだよね。だから食料はいつもたくさん常備しといた方がいい。食料を調達する手段はいくつかあるけど、手っ取り早いのは、ギルドから買う事だね。こんな風に、何かをするための手段としても、ギルドを使うんだ。
移住した仲間たちは、この地図上で移動する事ができるよ。移動する目的は色々あると思うけど、一番の理由は、移動した先の土地を支配する事だね。土地を支配すれば、その土地の種類に応じたギルドで影響力が増すし、作物を収穫したり、税金を集めたりもできる。それから、その土地を改良していけば、最終的には王様との誓約によって封土にできる。そうすると、ギルドでの地位はうなぎのぼりだよ。王様のお墨付きがもらえるって事だからね。
この地図に描かれている線が見えるかな。これは場所と場所を繋いでいる路線だよ。この路線に沿ってサイコロみたいな駒が移動するんだ。
道のように見えるのは陸路、波が描いてある所は海路、泡がぶくぶくしてる線は海の中。潜水艦で通行できる。鳥が飛んでいる線は空飛ぶ船で渡れる空路だよ。
海や空を旅する時は、そんな風に色んな乗り物がいる。乗り物は錬金術師が作るから、それをギルドから買わなきゃいけない。何をするにしても、ギルドを頼りにしなきゃいけない仕組みになってるんだ。
他にも、王様からの命令を達成するための最後の仕上げとして、王様の封蝋が必要になったり、収穫物を増やすための神への祈りとして、ロザリオの数珠を手に入れたり、必要な物は基本的にギルドから入手する事になる。ギルドで何かをする事が目的ではなくて、別の目的を達成するための手段としてギルドを使ってるんだね。
何かをしようと思ったら、まずは道具や材料が必要。それを手に入れるためには、ギルドで買わなきゃいけない。でもギルドに欲しい物が並んでなかったら、隣のギルドから仕入れてくる必要がある。仕入れるためにはギルドの職人にならなきゃいけないし、職人になるには、そのギルドでの影響力を強めないといけないから、仲間をその職業にして移住させればいいけど、そのためには……。
という感じで、色んな物事がギルドを軸として繋がっていて、物と人の流れを見ながら、やりたい事、やらなくていい事を考えて、自分の行動を決めていかなくちゃいけないんだ。選択肢がすごく多いから、大変そうに見えるけど、物事の流れを知った上で、ちゃんと順を追って見ていけば、自分のやらなきゃいけない事も自然と見えてくるよ。
なんだか、外が騒がしいね。ずっと車のクラクションが鳴ってる。事故でもあったのかな。……わっ、すごい風。びっくりした。カードが散らばっちゃったね。じゃあ、せっかくだから次はこのカードを見てみよう。
さあ、それではいざゲームが始まったとして、できる事がたくさんあり過ぎて、ええと、何ができるんだっけ……、ってなるよね。そんな時のために、できる事は全部1つずつ、このカードに書いてあるんだ。
カードは全部で11種類あるよ。そんなにあるの、って思うかもしれないけど、大丈夫。ほとんどはこれまで話した事が書いてあるだけだよ。
そのカードから、みんな一斉に4枚だけ選ぶ。それでその4枚を、順番に1枚ずつ出して、書いてある行動をしていくだけ。簡単でしょ?
そうしてみんなが行動を重ねるにつれて、少しずつ時代が進んでいって、5つ目の時代が始まったら、最後の得点計算をして、ゲーム終了だよ。
できる事はたくさんあって複雑だけど、何をしても、ただ機械的に処理されてる感じがしなくて、自分のした事がちゃんとこの国で起こっている事だと実感できるんだ。何と言うか、1つ1つの仕組みに、手触りがあるんだよね。そして、そうやって動かした何かが、この国のどこかにちゃんと影響して、繋がっていくんだ。それはすごく、面白くて、わくわくするんだよ。僕がこのゲームを好きな理由も、もしかしたらそういう所なのかもしれない。
すごい騒ぎだね。大きな事故じゃないといいけど。君の立ってる所から、下が見える? 僕も見たいけど、あんまり窓に寄るのは……、今はやめておこう。君もお腹が減ってると思うし。
そうだ、君のそばに置いてる、その人形の話をしてなかったね。
これは、この国に住んでいる2匹の怪物……、じゃなくて、何と言ったらいいだろう。何と言えばいいかな? 名前があれば、ちゃんと名前で呼びたいな。
2匹、いや、2人とも、すごく巨大な体で、そう、この部屋がマンションの上の方の階だから、ちょうどそのくらいの大きさで、人を捕まえたり、食べたりするんだよね。でもこんな風にして、人の言う事だって聞けるんだ。ゲームの中でも、ちゃんと一緒に戦ったりできるんだよね。
コーヒーを、もう一杯淹れてこようかな。それから、やっぱりチョコレートは僕が食べよう。……実はね、まだ僕はこのゲームを誰かと遊んだことがないんだ。あんまり友達がいないからね。だから、いつか、君と、君の友達の……、ええと、海が好きな彼と、3人で、このゲームを遊んでみたいな。ほんとは、そんな気持ちで、さっきから君に話してたんだ。
面白そうだと思った? とある国、君が生まれた国。そこで繰り返されるギルドの営みと、それを利用して成り上がろうとする、野心に燃える領主たち。広大な国土と、そこに住む不思議な生き物。その世界に、僕はいつか降り立ってみたいんだ。その時は、君も、ついて来てくれるかな。
君の顔が窓枠を塞いでるから、下の様子が見えないけど、さっきからの騒ぎって、もしかしたら……。
ねえ、君、ちょっと片足を上げてみてよ。君の足下で、ふふ、どうやら大渋滞が起こってるみたいだからさ。
- タイトル
- FEUDUM
- デザイナー
- Mark Swanson
- アートワーク
- Justin Schultz
- パブリッシャー
- Odd Bird Games
- 発売年代
- 2010年代
- プレイ人数
- 5人まで
- プレイ時間
- 2時間以上
- 対象年齢
- 小学校高学年から
- メカニクス
- エリアマジョリティ, ポイント間移動