BOSK ボスク

2019 / Daryl Andrews, Erica Bouyouris

ボードゲーム「BOSK」の箱表面

 美しいゲームである。

 目も眩むほど鮮やかな自然を描き出したアートワーク、ぎりぎりまで削ぎ落とされたゲームシステム、それらも美しく完成されているが、中でも一際目を引くのは、ゲームのテーマそのものが持つ美しさである。

 とある国立公園に、種々の樹木がその繁栄を競うように生い茂っている。人の手によらず、自然のままに生まれ育った木々の群れだ。季節は移ろい、風景は色を変える。落ち葉は苔むした丘を覆い、せせらぎの中に身を泳がせる。
 ここには、ただ、自然だけがある。言葉もなく、事件もない。喜びも、悲しみもない。物言わぬ生命の営みが、季節の波間にたゆたうように、ただ、静かに流れるだけだ。

ボードゲーム「BOSK」の箱側面
ボードゲーム「BOSK」の箱裏面

 あなたは、一本の立ち木である。同時に、生物としての種を同じくするひとかたまりの木々だ。春から夏へ、秋から冬へと、繰り返し、繰り返し、同じ営みを積み上げながら、自然の有り様を繋いでいく、取るに足らない一掴みの生命である。ときどき気紛れに訪れる散歩者の目を楽しませる以外には、これと言って人間と交わる事もない。何者にも顧みられず、いつか忘れ去られたとしても、変わる事なくそこにある、名も無き自然の断片だ。

 そして、それが、ただそれだけの理由によって、どこまでも、美しいのだ。

ボードゲーム「BOSK」の春のイメージ1
ボードゲーム「BOSK」の春のイメージ2
ボードゲーム「BOSK」の春のイメージ3

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 春、あなたは穏やかな陽光に抱かれながら、梢の先に新たな生命のしるしを芽吹かせる。長く冷たい月日に積もった光への憧れを、いま、一息で吐き出すように。

 周りにはいくつかに散らばったあなた自身が、若木や老木の姿をして、皆同じように生命の哮りに身を震わせている。あらゆる草花と樹木が、湧き立つ生気に悶える季節。いずれ再びその葉を落とす前に、集め得る限りの糧を、しなやかな身内に溜め込むのだ。やがてその手から零れ落ちる、小さな種に詰め込むために。

ボードゲーム「BOSK」の夏のイメージ1
ボードゲーム「BOSK」の夏のイメージ2
ボードゲーム「BOSK」の夏のイメージ3

 夏、むせ返る新緑に当てられたように、誘い寄せられるのは散歩者である。湿った苔を踏む音、時折聞こえるカメラの機械音が、絶え間なく続く葉擦れの中に溶けていく。散歩者は眩しそうに木々を仰ぎ、節くれ立つ木肌を撫でて行く。あなたはまるで知らぬ顔をして、ただ降り注ぐ光彩に枝葉を預けるだけだ。

 日は翳り、風は蒸れた吐息を洗い流す。足下の訪問者は、宵闇を待たずにいなくなる。いつの間にか現れた星の粒を数えるように、虫達がぽつぽつと鳴き始めると、あなたは渇いた体を潤すように、勢いよく大地から水を吸い上げる。
 朝には再び太陽が照らすだろう。存分に水気を溜め込んだ若葉は、光を透かして輝きを増すだろう。そして寡黙な散歩者があなたを見上げて、また、深い溜め息をつくのだ。

ボードゲーム「BOSK」の秋のイメージ1
ボードゲーム「BOSK」の秋のイメージ2
ボードゲーム「BOSK」の秋のイメージ3

 秋、あなたはそっと肩の荷を下ろすように、重たく茂らせた葉の一枚一枚を、澄んだ風の中に手放していく。あるものはくさびらの隙間に、あるものはせせらぎのおもてに、あるものは木々の隙間を縫って、まだ見ぬ景色の中へ飛び込んでいく。

 今や森は、長い夜への寝支度を整え、鮮やかな毛布をその肌に被せている。七色に織り込まれた落ち葉の表面を、滑る影は栗鼠である。枝よりも細い手足をしなやかに伸ばし、口一杯に頬張ったあなたの欠片たちを、あなたの知らないどこかへと運び去る。湿った岩肌を蹴って、水辺に波紋を残し、その先にある、冷たい帳の向こうへと。

ボードゲーム「BOSK」の冬のイメージ1
ボードゲーム「BOSK」の冬のイメージ2

 冬、薄く積もった雪の下、栗鼠は冷えた毛並みを震わして、浅い寝息を立てている。動いているか止まっているかも知れない景色の中で、梢の落とす影だけが、ゆっくりと濃淡を変えながら一日の行方を探している。

 あなたと、あなたによく似た無数の木々が、競うように落とした欠片のすべてに、季節の幕が、いま静かに下ろされる。
 さあ、いつでも眠ればいい。そうして再び穏やかな風があなたの肩を叩く時、新しいあなたがまた、寝惚けた顔を擦るように、その小さな双葉をくねらせながら、見知らぬ土の上で目を覚ますのだ。

ボードゲーム「BOSK」のイメージ

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 この箱の中にあるのは、何も無い何かである。いつからか、ただそこにある名も無き何かが、誰に語ることもなく、これから先も永遠に、その姿のままであり続ける。

 この箱を開ける時、あなたはそれを見るだろう。箱の中の木々の群れに、ボードに流れるせせらぎの中に、そしてどこか遠くの森の奥に、深い思い出の底にある、あまりにも美しい自然の姿を。