2020 / Grant Rodiek
子供たちがいる。
みんな思い思いの格好をして、本を開いたり、スケボーに乗ったり、水鉄砲を構えたりしている。楽しそうに、退屈そうに、中にはたった今悪巧みを思いついたばかりのような顔をして、きらめく一瞬の姿を切り取られている。
子供たちはカードの中で、今にも動き出しそうなほど生き生きと輝いている。だるまさんがころんだの遊びのように、少しよそ見をしている間に、本当は動いているんじゃないかというくらいに。
一人、二人、数えてみると五十人はいる。そんなにたくさんの子供たちが、みんなで集まって、何をしているんだろう。少し、覗いてみよう。もちろん、こっそり、子供たちには気付かれないように。
さあ、それでは、止まった時計の針を動かしてみよう。きっと子供たちも、早く遊びたくて仕方がないだろうから。そうだな、この子がいい。この男の子の目を借りて、これから少しだけ、動き出した子供たちの世界を覗いてみる事にしよう。
——
また一人、新しい子がやってきた。ぼくたちのスコップチームに入りたいらしい。工作が得意なんだって。チームには工作好きな子が少なかったから、ちょうどいい。
その子はティンクって言った。何にでもシールをベタベタ貼り付けるのが好きみたいで、自分の顔にまで貼ってる。貼りすぎて、誰だかわからなくなってるんだ。笑っちゃうよ。でも、顔が見えなくなっても、どこから見ても、ティンクなんだよね。ぼくも一枚もらおうかな。くれるんだったら、二枚でもいいけど。
とにかく、これで今日からティンクはぼくたちスコップチームの仲間になった。
ティンクは水鉄砲チームから抜けてきたらしい。うちのリーダーが連れてきたんだ。
いま、チームは全部で四つある。一番かっこいいのが、ぼくたちスコップチーム。それから水鉄砲チームと、スケボーチーム、それとのりチーム。のり、のりだよ、ネバネバしたやつ。
スケボーとかのりとか、別にそれが好きだとか得意な子が集まってるわけじゃない。ただ、初めにチームを作ったリーダーとその親友が、たまたまそれが好きだったというだけ。うちのリーダーは、どこにでも穴を掘ったり、埋めたり、そういうのが好きなんだ。丸いメガネをかけて、いかにも勉強が得意だって顔してるのに、自分の背よりも大きいスコップを、いつも持ち歩いてる。
いまリーダーの隣にいる二人が、リーダーの親友。リーダーと一緒にスコップチームを作った、ラスティとバドだ。
ラスティもリーダーと同じで、掘ったり運んだりが好きなやつ。いつも「ビッグホンカ」と一緒にいる。ビッグホンカっていうのは、トラックだ。おもちゃのね。
ラスティは相棒のビッグホンカがいれば、泥だとか瓦礫だとか、何でもらくらく運べるって言うんだけど、ほんとかな。誰もビッグホンカがそういうのをのせてるのを見たことがないんだ。それにいつだってピカピカだし。でも、まあ、頼りになるやつさ。少なくとも、ビッグホンカよりはね。
バドは何でもできる。冒険が好きなんだ。おじさんから飛行機乗りの古いゴーグルをもらってから、バドはいつもそれを付けて、冒険に出かけてる。おっきなリュックを背負ってさ。プラスチックのフォークとか、期限切れのコーンの缶詰だとか、いつもガチャガチャ言わせて歩いてる。
棒っきれとマスキングテープ、それからベッドのシーツでテントを作るようなやつさ。みんなは変なやつだって言うけど、ぼくは結構好きなんだ。バドには内緒だけど。
そんなわけで、ラスティもバドも、新しく入ったティンクも、もちろんぼくも、今はスコップチームの一員だ。
メンバーは他にもたくさんいる。でもずっと同じチームにいるかどうかはわからない。他のチームのリーダーに引き抜かれることもあるし、何もしないぐうたらだってバレたら、チームを追い出されることだってある。明日どのチームにいるかは、誰にもわからない。きびしい世界なんだ。大人たちよりも、ずっときびしいんだよ。
それで、そんな四つのチームがあって、それぞれが集まって何をしてるのかと言うと……。
秘密基地だ! びっくりするよね。みんなが自分の得意なことで力を合わせて、チームの秘密基地を作るんだ。最高にクールなやつを。もちろん、一番最初に最高でクールな基地を作ったチームには、賞品もある。マカロニで作ったお城の彫刻さ。誰が用意するのかなんて、知らないよ、そんなの。とにかく、負けられないんだ。他のチームよりも大きくてかっこいい秘密基地を作るために、毎日がんばってるのさ。
でもこんな時、パパだったらきっとこう言うね。一番になることより、がんばることが大事だって。はあ。大人はわかってない。ほんとに何もわかってないよ。誰にも負けない、見たこともないようなかっこいい基地を作って、一番になって、マカロニのお城をもらう。それが一番大事なことさ。ぼくたちは今、それしか考えてないんだ。
ちょっと待って、この匂い……。わお! ピザの匂いだ! きっとシェフが帰ってきたんだ。
シェフってのはあだ名さ。本名は、何だったかな、忘れちゃった。のりチームに引き抜かれて行ってたんだけど、またスコップに帰ってきたんだ。大歓迎だよ! シェフ、おかえり。
シェフは料理が得意なんだ。いかついサングラスをかけてギャングスターみたいだけど、シェフの持ってくるピザは最高だよ。いつもおいしい。チーズとサラミがのったやつさ。ママがスーパーから買ってきてチンしたピザと同じ味がするなんて、最高だろ?
よし、これから作りかけの秘密基地でピザパーティーだ。見張りの子たちにも持って行ってあげなくちゃ。
いま木の上で見張りについてるのは、スパイクとボーンズ。作ってる途中の基地を他のチームに見られちゃマズいからね、いつも見張りを立ててるんだ。
スパイクはいつもキックボードに乗ってる女の子。トゲのついたヘルメットをかぶって、長い髪を風になびかせてさ、かっこいいんだよ。でも見張りをしてる間はキックボードに乗れないから、イライラしてる。だからぼくがピザを持って行って、話し相手になってあげるんだ。だってぼくは……、いや、なんでもないよ。とにかく、素敵な女の子さ。
ボーンズ。今スパイクと二人っきりで見張りをしてる。でも大丈夫。ボーンズは本にしか興味がないんだ。きっと見張り台の上でも本を何冊も積み上げて、ずっと読んでるに決まってる。ピザにのせる前のマッシュルームみたいな頭に、いろんなことがぎゅうぎゅう詰めになってる。頭がいいんだ。何度か勉強を教えてもらったけど、まあ、わかんないよね。言ってることが難しいんだ。でも、ボーンズと一緒だったって言ったら、ママは喜ぶんだよね。
なんてったって、秘密基地で食べるピザは最高さ。サンダーが持ってきたスナックもある。チーズ味のやつ。チーズピザに、チーズスナック。子供はみんなチーズが好きなんだ。あーあ、野菜が全部チーズ味だったらいいのに。それなら野菜だって、残さず食べれるんだけど。
リーダーは、キティが持ってきたおもちゃ箱を引っかき回して、基地の材料になりそうな物を探してる。でもほとんどぬいぐるみだ。
リーダーが選んだ物を、蟻のアントがキャリーカートにつっこんでいく。蟻のアントってのは、もちろん本名じゃない。いつもカートに物をあふれるくらい積み上げて、その上に四つん這いになってもぞもぞしてるから蟻のアントって呼ばれてるんだ。
……何だろう、向こうが騒がしい。リーダーと誰かが言い争ってるみたいだ。行ってみよう。
思った通り、スクラッパーズだった。前から思ってたんだ。いつかこんなことになるってね。
スクラッパーズは水鉄砲が好きな兄弟で、最新式のパワフルな鉄砲と、おっきなタンクをそれぞれ持って、いつも鉄砲の的になるものを探してる。いや、ぼくが勝手にそう思ってるだけで、兄弟じゃないのかもしれない。顔は似てないんだよね。よく知らないんだ。あんまり仲良くもないし。ちょっと乱暴なんだ。今も、リーダーに飛びかかりそうになってる。
結局、スクラッパーズは出て行ってしまった。もしかしたら、他のチームから誘われてるのかもしれない。でも、あいつらの気持ちもわかるんだ。いま、スコップチームには水鉄砲が好きな子がいない。スクラッパーズは水鉄砲を持ってる子たちとバンバンやるのが好きだから、ちょっと退屈だったんじゃないかな。
じゃあね、スクラッパーズ。短い間だったけど、バイバイ。行った先のチームでは、思う存分撃ちまくれたらいいね。的にされるのはごめんだけど。
スクラッパーズの後ろ姿が小さくなっていく。なんとなく寂しそうに見えるのは、もしかしたら、ぼくがそう思ってるのかもしれない。
みんなまたパーティーに戻った。ピザはすっかり冷えてしまってる。誰もしゃべらない。キティは散らかったぬいぐるみを集めてる。
リーダーが、食べ終わったら、今日こそ基地を完成させよう、と言った。
そう。もうすぐ基地が完成するんだ。くよくよしてる場合じゃない。ぼくたちだけで作った、最高にクールで、最高に面白くて、どんな敵が来ても負けない、てっぺんにマカロニのお城がのった秘密基地。
完成したら、ティンクのシールを貼って、キティのぬいぐるみを飾ろう。ビッグホンカの駐車場もあって、アントのカートと並べて置けるようにしよう。バドにはテントを作ってもらわなきゃ。ボーンズの本、全部置けるかな。図書館みたいにしてもいいかもね。他のみんなにも、それぞれ居場所があって、いつかは別のチームの子たちも、スクラッパーズの二人だって、一緒になって、サンダーのチーズスナックと、シェフのチーズピザを食べるんだ。それで、ぼくとスパイクで……。ん、スパイク?
あ、スパイク! すっかり忘れてた。ピザを持って行くつもりだったんだ。うわあ、完全に冷たくなってる。スパイク、怒るかな。怒るだろうな……。でも、早く行かなくちゃ。ぼくたちは、お腹いっぱい食べて、元気になって、今日も一日、やらなきゃいけないことがあるんだから。
——
ここには、ずっと子供たちがいる。
笑ったり、怒ったり、もしかしたら、ちょっと寂しそうな顔をして、カードの中で永遠に遊び続けている。
この箱を開ければ、あなたもまた一人の子供になる。たくさんの仲間たちと、遊んで、喧嘩して、出会ったり、別れたりしながら、誰も見た事がない最高の秘密基地を作るのだ。
ほら、覗いてごらん、きみの親友が、早くおいでと、きみを手招きしているよ。さあ、行っておいで。せっかくのピザが、冷めないうちにね。
- タイトル
- FORT
- デザイナー
- Grant Rodiek
- アートワーク
- Kyle Ferrin
- パブリッシャー
- Leder Games
- 発売年代
- 2020年代
- プレイ人数
- 4人まで
- プレイ時間
- 30分くらい
- 対象年齢
- 小学校中学年から
- メカニクス
- デッキビルディング