In the Shadow of the Emperor 皇帝の影

2004 / Ralf Burkert

ボードゲーム「皇帝の影」の箱表面

 まるで中世ヨーロッパの手書き写本のようだが、これは本ではない。箱である。そしてその中には、あるボードゲームの一式が入っている。ゲームの名は「皇帝の影」と言う。

 原題の「In the Shadow of the Emperor」を正確に訳せば「皇帝の影の中で」となる。華々しい威光に照らされた皇帝、その影の中には、皇帝選出までの厳しく尋常ならざる苦難の道程や、次期皇帝を狙う諸侯達の暗躍が秘められているのだろう。このゲームは、その影の中を覗くゲームだ。

 ゲームの舞台は中世ヨーロッパ、神聖ローマ帝国時代のドイツである。当時の皇帝は選挙によって選ばれており、選挙権を有していたのは7人の諸侯だった。その諸侯たちは「皇帝を選ぶ諸侯」という意味で「選帝侯」と呼ばれた。

 このゲームでは、自分の一族を選帝侯にしたり、選帝侯の選挙権を行使して一族を皇帝の座に据えたりしながら、より多くの勝利点を獲得する事を目指す。

 しかし「神聖ローマ帝国」「選帝侯」などと言われてすんなり飲み込める人がどれだけいるだろうか。余程の歴史好きじゃなければ、まず言葉の難しさでノックアウトされて、8カウントくらいは立ち上がれないだろう。

 このゲームの魅力が「神聖ローマ帝国皇帝の選挙」という史実を見事に再現している点にあるのは疑いない。そのテーマを置き去りにしてゲームを語るのは、ウグイス餡を抜き去ったウグイスパンを味わうのと同じくらいナンセンスだ。
 だがウグイス餡を知らない人が、ウグイス餡という不可解な名称のせいでそのパンを手に取ろうともしないのであれば、まずはアンパンを食べさせておいて「アンパン美味しいですよね。さて、ここにちょっと変わった餡のパンがあるんです」と言ってウグイスパンに誘導する方が、結果的にウグイスパンにとっても有意義なアプローチではないだろうか。

 そういう訳だから、今から僕がやろうとする蛮行についても、どうか寛大な心で見守って欲しいのである。

 それではこれから、神聖ローマ帝国の皇帝選挙を「小学校の生徒会長選挙」にメタモルフォーゼさせて、純真な子供達の健気な姿にあやかりながら、このゲームの内容を(やや婉曲的に)解説していきたい。

ボードゲーム「皇帝の影」の箱側面
ボードゲーム「皇帝の影」の箱裏面

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「みんな、進級おめでとう。今日からみんな6年生だね。新しいクラスで、勉強も、スポーツも、色んな学級活動も、仲良く頑張っていこう。このクラスは、僕が担任することになります」

 そう言って、先生は自分の名前を黒板に書いた。「進瀬狼馬(しんせろうま)」。変な名前だな。

「6年生は一番上級生だから、学校の委員会の活動もしてもらいます。それから生徒会長も6年生から1人選びます」

 生徒会長か。みんなの前で話したりするんだよね。恥ずかしそうだけど、ちょっとかっこいい。

ボードゲーム「皇帝の影」の選帝候国

「委員会は7つあるから、それぞれ好きなのに入ってください。絶対入らなきゃいけないわけじゃないけど、できれば参加して欲しいな。みんなも知ってる通り、この学校では卒業式の時に、6年生の4つのクラスがその1年間どれだけ学校の活動を頑張ったかで、金賞、銀賞、という形で表彰されます。委員会に入るって事は、金賞に近づくための第一歩だからね。さて、何か質問がある人はいますか?」

 隣の席の女子が手を挙げた。

「委員会はどんなのがあるんですか?」

 それ、僕が質問しようと思ってたのに。

「うん、いい質問だね。後で説明しようと思ってたけど、今説明してしまおう。さっきも言ったように、委員会は7種類あります。図書委員会、飼育委員会、保健委員会、放送委員会、美化委員会、新聞委員会、給食委員会の7つです。それぞれがどんな活動をしてるかは、何となく想望できるよね」

 飼育委員は嫌だな。ウサギ小屋って変な匂いだし。給食委員になったらゼリーが余ったらもらえるかもしれない。

「委員会では、それぞれ委員長も決める事になります。委員長が1人だけの委員会もあれば、ペアで委員長をやっても良い委員会もあるから、覚えておいてね」

ボードゲーム「皇帝の影」の選帝候国と貴族

「委員長はどうやって決めるんですか?」

 先生のすぐ前の男子が質問した。近所に住んでる坊主頭だ。いつもダンゴムシを鼻の穴に詰めたりして馬鹿みたいなくせに、こんな時にちゃんと質問するなんて。信じられない。

「まずその委員会のメンバーの内、何組の人が一番多いのかを数えます。数えたら、一番人数が多かった組の委員の中から委員長になる人を決めます。例えば美化委員の中で君達6年3組の人が一番多かったら、美化委員長は3組の美化委員の何から選ぶって事だね。もし美化委員が全員3組だったら、絶対に美化委員長は3組になるよ」

「生徒会も委員会ですか?」

 後ろの方の席から、誰かが質問した。みんな、僕が質問するのを邪魔する気だな。

「生徒会は委員会とはちょっと違います。何が違うかと言うと、生徒会は委員がいません。という事は、他の委員会みたいな決め方で生徒会長を決める事はできないよね。じゃあどうやって生徒会長を決めるかと言うと、ええと、まずは生徒会長の説明を簡単にしておこうかな」

 そう言って先生は黒板に丸を描いて、その中に「生徒会長」と書いた。

ボードゲーム「皇帝の影」の皇帝

「みんなも知ってる通り、この学校では生徒会長はずっと1人の人がやるわけではありません。必要に応じて、常に入れ替わります。なんでそんなにコロコロ入れ替わるのかと言うと、生徒会長になりたい人が次々に手を挙げて『次は僕! 次は私!』と立候補するからです。生徒会長がいるクラスはそれだけで評価されるから、どのクラスも自分のクラスから生徒会長を出したいわけです。もちろん、生徒会長自体にやり甲斐があるから、ってのが一番大事な事だけどね。それじゃあどういう仕組みで生徒会長が入れ替わるのか、みんなはまだ知らないよね。それを今から説明します」

ボードゲーム「皇帝の影」のライバルカード

 先生は黒板の生徒会長の横に並べて「立候補者」と書いて、丸で囲んだ。

「生徒会長が変わるタイミング、それは他に生徒会長をやりたい人が立候補した時です。立候補者は毎回1人だけ、早い者勝ちだよ。立候補者が出たら、次は選挙をします。みんなはまだ年齢的に選挙に行った事がないだろうから、これが初めての投票になるね」

 選挙には行った事がある。お母さんについて行ったんだ。公民館に人がたくさん集まってた。僕は外で遊んでたから、お母さんが中で何をしてたのかは知らないけど。
 それから先生は、黒板の2つの丸の下に小さな丸を4つ書いて、それぞれ順番に「1組」から「4組」と書いた。

ボードゲーム「皇帝の影」の投票カード

「投票は4つのクラスがそれぞれ『今の生徒会長にこのまま続けて欲しい』か、『立候補者に新しい生徒会長になって欲しい』か、どちらかを選んで投票するんだ。ただし、4つのクラスがそれぞれ1票ずつ持っているわけじゃない。ここは大事なところだよ。それぞれのクラスで、委員長をしている人が何人いるか、それがそのクラスの持っている票の数になるんだ」

 先生は「3組」と書かれた丸の下に「図書」と「給食」と書いて、話を続けた。

「例えばうちのクラスに図書委員長と給食委員長がいたとするね。そしたらうちのクラスの持っている票は2票。その2票をまとめて『今の生徒会長』か『新しい立候補者』かどちらかに投票するんだ。もちろん、既にうちのクラスの誰かが生徒会長だったら『今の生徒会長』に投票するよね。立候補者がいるクラスは『新しい立候補者』に投票する。他のクラスはどちらかに投票する。それでたくさん票が集まった方が、次の生徒会長になるんだ」

 先生は生徒会長と立候補者の2つの丸の間に、大きなはてなマークを書いて、そばに「選挙で決める」と書いた。

「なんとなく仕組みがわかってきたかな。それじゃあ、卒業式での金賞を目指すためには、どういう風にしたらいいかな? みんなで考えてみよう」

ボードゲーム「皇帝の影」のポイントカード

 教室が少しざわざわし始めた。何人かが手を挙げる。

「うちのクラスからたくさん委員長になればいいと思います」

「そうだね。じゃあ委員長になるためにはどうしたらいい?」

 また少しざわざわした後、誰かが言った。

「委員会になるべくたくさん入って、うちのクラスの人が委員長になれるようにしたらいいと思います」

「うん。その通り。委員長になるためには、それぞれの委員会でうちのクラスの人数が一番多くならないといけないからね」

 するとまた、誰かが言った。僕も早く何か言わなきゃいけないのに。

「委員会には好きなだけ勝手に入れるんですか?」

 先生は質問をした女子にニヤリと笑いかけてから答えた。

「さて、ここでみんなに面白い物を見せよう」

 面白いと聞いて、またざわざわした。

「これだよ。まだみんなは見たことがないよね」

ボードゲーム「皇帝の影」のアクションカード

 先生が取り出したのは、何枚かのカードだった。僕の席からは模様まで見えなかったけど、赤いカードと、青いのと、灰色のがあるみたいだった。

「これは『お願いカード』と言って、みんなが学校の活動により興味を持って取り組んでもらうために、先生達が作った物です。みんな、近くに来て見てごらん」

 みんなが一斉にわあっと立ち上がって、先生の所に集まった。先生は教卓の上にカードを広げて、みんなに良く見えるようにした。

「色んな種類のカードがあるよね。みんなは、このカードを使って、より積極的に学校の活動に取り組んでいけるんだ。例えばこのカード」

 そう言って先生は、一枚のカードを指さした。人間のマークと矢印が書いてある。

ボードゲーム「皇帝の影」のアクションカード

「このカードは『推薦カード』と言って、自分のクラスからどこかの委員会に人を推薦できるカードなんだ。このカードを使えば、定員に空きがある委員会に自分のクラスの誰かを入れる事ができるよ」

 みんなの目が急にキラキラし始めた。みんな、カードとか、大好きなんだ。僕も好きだけど。

「それから隣のこのカード。これは『ペアカード』と言って、委員になってる人をペアにできるカードです。1人でやるより、ペアでやった方がいい活動もあるからね。それにペアになったら、自分のクラスからもう1人その委員会に入れる事になるから、委員長になるための人数が増える事になるよね。でも注意して欲しいのは……、みんな先生がさっきチラッと言った事を覚えてるかな」

「ペアだったら委員長になれない委員会もあるんでしょ?」

 と、すかさず女子が言った。僕も思いついてたのに!

「よく覚えてたね。そう。だからペアになった方がいいかは、良く考える必要があるね」

「この数字が書いてるカードは何ですか?」

 僕の隣に立っていた男子がカードを取りながら言った。ずるい! 僕もカードを取りたい!

「それは『レベルカード』だね。みんなゲームとかでレベルが上がったりするのって経験あるよね。委員会に入って活動をしていったら、みんなレベルが上がっていくんだ。どれだけ委員会の仕事に慣れていってるかのレベル、そんな風に思ってください。委員会に入ったばかりの人はレベル1、しばらくその委員会で頑張っていたらレベル2に上がって、最後はレベル4まで上がります。レベル4の次はどうなるかと言うと……、ありません。レベル4の次に上がる人は、委員会を辞めなきゃいけない事になっています」

ボードゲーム「皇帝の影」の貴族タイル

「なんで? 慣れてる人がずっとやった方がいいのに」

「そうだね。でもみんなには1つの委員会だけじゃなくて色んな活動を経験して欲しいし、それに同じ人がずっと委員をしてたら、他に委員になりたい人がいつまでもなれないだろう? だから、レベルという形でみんなが委員会で活動できる期間を調整してるんだよ。それでさっきのレベルカードだけど、そのカードを使ったら、みんなのレベルをちょっとだけ上げたり下げたりする事ができるんだ」

「おれ、レベル上げたい!」

 体の大きな野球部の男子がそう言った。

「ははは。でもレベルを上げたら委員会から出ていかなきゃいけなくなるよ」

「そっか……。じゃあおれレベル下げる!」

「だったらレベルを上げる意味ってあるんですか?」

 普段あんまり喋らない、大人しい女子が聞いた。

「どう思う? 考えてみて」

「うーん……、もし同じ人がこのカードを何回も使って、レベルが上がる度に下げてたら、ずっと同じ委員会にいれる事になって、ずるいなーって思うから、その人にこのカードを使ってレベルを上げて早く委員会から出て行ってもらう」

「いい事に気が付いたね。それがこのカードを使う理由の1つだよ。レベルを下げたらずっと同じ委員会に居続ける事ができるからね。その不公平を無くすためにもこのカードが使えるんだ」

 でも僕は思った。先にカードを使いまくって、委員会を全部うちのクラスで埋め尽くしてしまったら、金賞なんて確実なのに。

「カードを何回も使って、全部の委員会をうちのクラスの人にしたらいいんじゃない?」

 え? 今の僕が言ったんじゃないよ? 何で僕が考えてる事がわかるの? 超能力?

「みんなそう思うだろうね。でもそんなズルはできないようになってるんだ。実は、このカードの他に、クラスごとにポイントを持っています。そのポイントを使って、カードをもらうんだ。だから一度にたくさんのカードをもらう事はできないよ。それにカードの枚数にも限りがあるからね」

 えーっ、とみんなが不満そうに言った。僕も言った。

「だからどのカードを、どのタイミングで使うか、よく考えなきゃいけないね。カードは他にも色んな種類があるから、それはまた今度教えます。生徒会長に立候補する時にも、カードを使うよ」

ボードゲーム「皇帝の影」のターラートラック

「ポイントはどうやったらもらえるんですか?」

「ポイントは、各学期の初めに全クラス6ポイントずつもらえます。学期といっても、1学期と2学期は前半と後半に分けてあるから、全部で5つの学期があるみたいな感じだね」

 たったの6ポイント? みんなも同じ事を思ったみたいで、少ない少ないとみんなで文句を言っている。

「実はもらえるポイントは増やす事ができるんだ。増やし方は3つあります。1つは、クラスの机とか椅子を委員会に貸してあげる事。委員会は人数が増えたり減ったりするからね。机や椅子の予備があると便利なんだ。1クラスから3つまで、どこかの委員会に貸し出す事ができて、貸し出した個数分、もらえるポイントが増えます。それに貸し出すことで活動の評価も上がるよ」

ボードゲーム「皇帝の影」の都市

 僕の机は嫌だな。だってたくさん落書きしてて、恥ずかしい。

「2つ目の増やし方も、机に関係する事です。自分のクラスの人が委員長をしている委員会で、自分のクラス以外から貸してもらってる机があれば、その個数分がポイントとしてもらえます。たくさん机を借りている委員会は、それだけたくさん活動していると考えられるから、代表してその委員長がいるクラスにポイントが与えられるんだよ」

「3つ目も机の事ですか?」

「3つ目は机とは関係ないんだけど、保健委員会の委員長をしているクラスは、追加で2ポイントもらえます。保健委員会はみんなの怪我とか病気に関わる大事な委員会だからね、その委員長は優先してカードが使えるようにポイントが多くもらえるんだ」

ボードゲーム「皇帝の影」の選帝候

「保健委員会の他にはポイントをもらえる委員会は無いの?」

「ポイントをもらえるのは、保健委員長だけだね。けど他の委員会の委員長も、それぞれ特別な権利を持っているよ。例えば新聞委員長は生徒会の活動をいつも校内新聞の記事にしてるから、その分生徒会を良く知っているという意味で、生徒会長選挙の時に1人で2票分投票できる。それから放送委員長は、みんなが使ってしまって無くなったカードも使えるんだ。何か急に放送しないといけなくなった時にもとっさに対応できるように、いつもどのカードでも使えるようになってるんだ」

ボードゲーム「皇帝の影」の選帝候

 給食委員長は何ができるんだろう。休みの子がいて余ったゼリーを、優先して食べれるのかな。

「何でカードに赤とか青とかあるんですか?」

 あっ、それさっき僕が気づいたやつだ! すっかり忘れてた。

「さすが、みんな良く見てるね。この色はカードを使った後のオマケみたいな物で、オマケとして委員会に追加で1人入れるんだ。その時に1人で入るか、他のクラスの人とペアで入るかを決めるのが、この色だよ」

ボードゲーム「皇帝の影」のアクションカード

「灰色のは何ですか?」

「灰色のカードにはオマケが付きません」

 質問した女子はちょっと悲しそうな顔をして、だったら要らない、と言った。

「さっき1年間が5つ分の学期に分かれてると言ったよね。その各学期ごとに、前の学期で使ったカードの色を見て、もし青の方が多かったら、オマケで1人どこかの委員会に入れる。もし青と赤が同じか、赤の方が多かったら、どこかの委員会の他のクラスの委員にペアを申し込めるんだ。もし相手がオッケーだったら、その人の補佐役として委員会に入る。補佐役はあくまで補佐だから、実際の委員の人数としては他のクラスの人数って事で数えられちゃうけど、補佐を頑張ってるってことで、ちゃんと評価されるんだ」

ボードゲーム「皇帝の影」の貴族タイル

「もしペアが断られたらどうなるんですか?」

「その時は残念だけど、ペアにはなれずに、委員会にも入れないんだ。でも何も無いのは悲しいから、代わりに1ポイントがもらえるよ」

 みんな何も喋らず、しーんとなってしまった。

「ペアになったら委員長になれない委員会もあるからね。断られる事だってあるよ。自分も得する、相手も得する、どっちも得するためにはどうしたらいいんだろう、って考えるのは、すごく大事な事だよ」

 僕は知ってる。いつもお父さんに言われてるから。お前はお兄ちゃんだろう、弟と喧嘩ばっかりしてないで、兄弟どっちも得するようなやり方を考えてみろ、ってね。

「色々説明してばかりだけど、みんな集中してよく聞いてるね。大したもんだぞ。それじゃあみんなのやる気にちょっと甘えて、もう少しだけ説明を続けようかな。委員会への入り方はもう説明したけど、委員として入る他に、お手伝いとして入る方法もあるよ。この灰色の『お手伝いカード』を使うんだ。お手伝いも基本的には委員と同じように活動するけど、レベルが無いから、ずっと続けて活動していく事ができる。ただ正式な委員じゃないから、もし新しい委員が入る時に席が無かったら、委員を抜けなくちゃいけないんだ。それに、各クラスからお手伝いは3人までしか出せないよ」

ボードゲーム「皇帝の影」の騎士タイル

 そういえば今日は帰ったらお皿洗いのお手伝いの日だ。うわあ、めんどくさいなあ。

「うん、これで一通り全部説明できたかな。初めての事ばっかりで、聞くだけでも疲れただろう。最後に、今まで説明した事を踏まえて、これから1年間の流れを簡単に説明してから終わりにしようか」

「先生、ちょっとトイレ」

 坊主頭の子がもじもじしながら言った。

「そうだね、ちょっとだけ休憩しよう」

ボードゲーム「皇帝の影」のアクションカード

 何人かトイレに出て行ったり、机に戻ったりしていたけど、僕は教卓に並べられたカードから目が離せなかった。このカードを上手く使えば、卒業式で金賞が取れるんだ。なんかすごく、ゲームみたいだな。そう考えたら、今までめんどくさそうだと思ってた委員会の活動も、ちょっと面白そうに思えてきた。
 黒板には大きく「生徒会長」と書かれている。僕がそう呼ばれる事もあるんだろうか。そんな事、今まで一度も考えた事なかった。生徒会長……。

「そろそろみんな戻ったかな。それじゃあ、最後の説明を始めよう。みんな、ひとまず席に着いてください」

 先生は黒板の図を消して、新たに横長の線を引いた。

ボードゲーム「皇帝の影」の皇帝コマ

「これから1年間、みんなには学校の活動を頑張ってもらうんだけど、その流れを簡単に説明します。まずは、さっきも話したように、1年間は1学期、2学期、3学期に分かれていて、1学期と2学期はそれぞれ前半と後半に分かれているから、全部で5つの学期がある感じです。1学期の初めに、最初の生徒会長が決まります。これはくじ引きで1つのクラスが選ばれて、そのクラスから代表が1人生徒会長になります。その後、各クラスごとに、順番に1人ずつ、好きな委員会の委員長を決めます。それから各委員会に、何人かずつ最初の委員が決まったら、1学期の活動が始まります」

 先生は黒板に引いた線を五等分して、学期の番号を書いていった。

「まずは1学期前半。各クラスは7ポイントずつ持ってスタートします。それぞれのクラスが、順番にカードを使って、委員会に入ったり、机を貸し出したり、お手伝いに行ったりしながら、活動していきます」

 先生はどんどん書いていく。先生って、何でこんなに書くのが早いんだろう。ノートを取るのがいつも追いつかないんだ。

ボードゲーム「皇帝の影」の選帝候

「1学期前半の最後には、新しい委員長を決めます。ここで最初に委員長が入れ替わるんだね。委員長は学期ごとに入れ替えがあります。もちろん、変わらない場合もあります。決め方はさっき言った通りだよ。委員の人数、お手伝いの人数、貸し出してる机の数などを合計して、一番多かったクラスの委員から、新しい委員長が決まるんだ」

 先生は「新委員長」と書いて、黄色いチョークでピカピカの光を描いた。

「委員長が決まったら、次は生徒会長選挙です。各クラスが何票か持って『今の生徒会長』か『新しい立候補者』かに投票します。持っている票の数は、基本的にはクラスにいる委員長の数だね。立候補者がいなかったら、選挙はせず、生徒会長も変わりません」

ボードゲーム「皇帝の影」の玉座

 先生は黒板に「生徒会長」と書いた。また黄色い光を描くんだろうかと見ていたら、ピンクのチョークで生徒会長の周りにギザギザの模様を描いた。まるで生徒会長が爆発してるみたいだ。

「選挙が終わったら、新しい生徒会長が生徒会から各委員会に机を貸し出したり、学期によっては生徒会長がいるクラスがポイントをもらったりして、その学期は終わります」

 生徒会長はポイントももらえるんだ。どうしよう。生徒会長なんて、なるつもりなかったのに……。あ、別に僕がなるわけじゃないか。

「次の学期が始まると、またポイントがもらえます。各クラス6ポイントと、それに加えて、貸し出している机の数でもポイントがもらえるって事だったよね。それから学期の初めに、委員はみんなレベルが1つ上がります」

 さっきレベルに反応していた野球部の男子をチラッと見たら、目をつぶってた。じっくり考えてるのかと思ったけど、違う。あれは寝てるんだ。

「それと学期の初めには、前の学期で使ったカードの色で、オマケの委員決めがあります。その後は、また前の学期と同じように活動して、その繰り返しです。3学期が終わったら、いよいよ卒業式だね。1年間の頑張りを、みんなに見てもらう時だ。一番活動を頑張ったと認められたクラスが、金賞をもらいます」

ボードゲーム「皇帝の影」のプレイ風景

 先生は喋り終わると、黙ったまま、ゆっくりとクラス全体を眺めた。

「難しそうだと思うかい? でも簡単だよ。まずは生徒会長を目指す事。そして委員長になる事。それから委員の活動をしっかり頑張る事。そうすれば、いつの間にか金賞なんてみんなの後ろから付いてくるさ」

 ちょっと待って。先生は説明を終わるつもりだ。僕がまだ何も質問してないのに!

「でも本当はね、先生がこんな事を言っちゃいけないけど、金賞よりもずっと大切な事があるんだよ。委員会の活動をしながら、みんながそれを見つけてくれたら、先生は嬉しいです」

 だめ、説明が終わっちゃう。僕も何か質問しなきゃ。何か、考えなきゃ。何だろう、何だろう、

「先生」

 思わず声が出た。

「ん、どうした?」

「僕、」

 僕は、

「生……、」

 生徒、

「生徒会長になりたいです!」

 先生は僕を見て、にっこりと笑った。

ボードゲーム「皇帝の影」の箱の人物

——

 小学生達の生徒会選挙、いかがだったろうか?

 こんな楽しげなテーマのボードゲームがあったら、ワクワクしますよね。ところで、ここに変わったテーマのボードゲームがあるんです。どんなテーマかと言うと、神聖ローマ帝国の選帝侯がですね……。